中小企業経営者のキャリア・アンカーをさぐる
「この取引は条件がよくても、ウチの社長は断るよ」
「この仕事は儲からないのに、なぜかウチの社長は受けるんだよね」
とかとか。
社長の判断に対する従業員の声を聞くことがあります。
中小企業の現場では、社長の一言で仕事が決まることも多い。
従業員からみれば、ときに非合理的な意思決定に見える。
それでも、社長の判断の根っこには、アツい信念があったりします。
この経営者の信念は、キャリア理論でいう「キャリア・アンカー」のようなものかもしれません。
キャリア・アンカーとは
キャリア・アンカーとは、エドガー・シャイン教授が提唱した概念。
ざっくりといえば「キャリアや仕事に対する価値観」。
このキャリア・アンカーは、次の8つのカテゴリーに分かれています。
このカテゴリー分けは、働く人全般を対象にしたもの。
ですので、経営者の持つ価値観をきれいに分けるのは難しいですが、何かしら近いアンカーはあるのではと思います。
経営者のキャリア・アンカー
経営者のキャリア・アンカーは、話を聞くなかで感じ取れることも多い。
イメージとして
①「買い物するおばあちゃんの喜ぶ顔が見たいから」という想いで、トラックに食品を積み込み、過疎地域で移動販売を続ける経営者。
人件費や燃料費を考えれば、移動販売部門が赤字でも続ける、自身の商売のこだわり(自律)。
②地元に塾がないという理由で、本業とは関係ない、塾事業を営む経営者。
「地元の子どもたちには学びの場を提供したい」という社会貢献。
③「この技術を使って、〇〇病で苦しむ人たちを安く治療したい」と意気込むベンチャーの経営者。
この分野の技術力では、大企業には負けない、だからこそ自分たちが、というチャレンジ精神。
などなど。
大企業の場合、株主の意向もあり、利益に直接、結び付かないことは手を出しにくい。
所有と経営が一体化した中小企業だからこそ、経営者の価値観が原動力となり、取り組めることかもしれません。
キャリア・アンカーを理解する
創業者の場合、起業の想いや事業立ち上げの意思が強く、会話の節々に経営者の価値観がにじみ出てきます。
一方で、中小企業の経営者のなかには、何度か話をお聞きしても、キャリア・アンカーが見えにくい場合もあります。
自身の傾聴力不足もありますが、表立って価値観を見せず、内に秘めている経営者も多い気がします。
支援者の自分にとって、経営者の価値観を探るのは大事なプロセス。
それは、何を経営課題としてとらえ、何を優先的に解決するかは、経営者の価値観によるところも大きいからです。
例えば、
職人のようなキャリア・アンカーをもつ飲食店の経営者で、自分が料理することにこだわる人に、多店舗展開による業容拡大の話をしても、きっと響かない。
売上増加や生産性アップなど、メリットがあっても、経営者のキャリア・アンカーにそぐわない話はスルーされる可能性が高い気がします。
ちょっとした提案をするときにも、事前に経営者のキャリア・アンカーをつかめると安心しますね。
もちろん、ホームページやパンフレットで、経営理念などは確認できますが、経営者本人とのコミュニケーションを通じて直接、価値観を感じ取れたらと思ってます。
と、そんな思いを持ちながら日々、経営者のキャリア・アンカーをさぐる旅は続きます。
おわり。