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いつ読んでも色あせない起業本

今年は縁あって仕事とは別に、とある大学の『中小企業企業論』の講師を数コマ務めました。中小企業支援のフィールドで20年、働いていますが、アカデミックな雰囲気は、ビジネスの場とはまた違う刺激を受けますね。

講義内容を考えるときに、読み返してみた起業本。
いつ読んでも色あせないなあ」と思った5冊をライトにまとめてみました。

①渋谷ではたらく社長の告白 

サイバーエージェントの藤田社長の人気本。
今でこそAmebaテレビやブログなど、社会に自然に溶け込んでいる感じですが、この本を読むと、起業時の苦しみの上に成り立っていることを考えさせられます。

タイトルにある「告白」のとおり、起業のプロセスを通して、自身の葛藤や、感情の動きなど、起業家の内面を赤裸々に描いているのが特徴。

ビジネスの要素はもちろん大切ですが、「21世紀を代表する会社をつくる」には、鋼のようなメンタルを持ち続ける覚悟が必要なんだなあと感じた一冊でした。

この本をモデルにしたと言われるドラマ「学校は会社じゃねえんだよ」。ドラマだけあって、ベンチャービジネスの浮き沈みが、インパクト強く伝わってきます。


②僕はミドリムシで世界を救うことに決めました 

最近はバイオ燃料の話題でも有名なユーグレナの出雲社長の本。

「バングラデシュのグラミン銀行で1か月インターンで働く」⇒「貧困や飢餓で苦しむ人の支援をしたい」⇒「仙豆のような食べ物はないか」⇒「ミドリムシ」!

そこから、世界中で培養を試みてもうまくいかないミドリムシを、世界で初めて屋外大量培養に成功させてしまう、チャレンジ精神がスゴい。

最近ならば、「SDGs」や「ソーシャルビジネス」の要素が強いビジネスとして注目を浴びそうですが、20年前にビジネスとして始め、軌道に乗せた実行力に感服します。

東大出身で知的なイメージもありますが、出雲社長の「何かを成し遂げたいならば「やれ!」「人に会え!」「自分の思いを伝えろ!」という泥臭いメッセージが響きます。

だいぶ前に、講演会を拝聴したときに「500社に断れられてもあきらめなかった」という言葉は今でも記憶に残っています。

③不格好経営

DeNAの創業者、南場会長の本。

もとマッキンゼーのコンサルタント。スマートに経営者にアドバイスしていたのが、自ら経営するとなると、こんなにも不格好になるのか、という飾らない、振り返りが共感を持ちます。

執筆時には、すでにスタートアップから、高く羽ばたいていたDeNAを率いながら、あえて失敗の経験やつらい話を中心に語っているのも、むしろスゴミを感じます。

「ベンチャーのきびしい現実を知ってもらいたい」との思いもあったようですが、南場会長の人柄や人間性を通して、つらいだろうけど、起業して成し遂げるワクワク感やおもしろさ、も強く感じられた一冊でした。

読後感のさわやかさ、はピカイチです。

④ライフ・イズ・ベジタブル

有機野菜などのネット販売を行うオイシックス創業者 高島社長の本。

我が家もオイシックスのミールキットにお世話になっていますが、安全安心な野菜をおいしく食べられる工夫が気に入っています。

今でこそ、野菜や食料品をネットで注文するのはめずらしくありませんが、事業立ち上げ時は、農家さんからの買い付けや、ネットで売れない苦労など、試行錯誤が続いたようです。

高島社長いわく「問題を選ぶことはできないが、問題を解く態度は100%自分たちできめることができる」。ベンチャービジネスに限らず、どんなビジネスでも使える、示唆に富んだ言葉です。

⑤行こう、どこにもなかった方法で

おしゃれな生活家電をつくるバルミューダの寺尾社長の本。

バルミューダといえば、デザインと性能性の高い扇風機やトースターが印象的ですが、実はこの本を読むまで、どんな会社かほとんど知りませんでした。

寺尾社長は、ミュージシャンからものづくりの「家電」の世界にはいった異色の経歴です。
「家電」といえば、「大企業のビジネス」「新規参入が難しい業界」と勝手に思っていましたが、見事に覆されました。

何のツテがなくても、あきらめない強い心と知恵、工夫があれば、大企業が中心の土俵でもチャレンジできる、そんな想いにさせてくれます。(簡単なことではないでしょうが)

また、あきらめず行動し続ける起業家のまわりには、工場を貸してくれる人や、資金繰りを支援してくれる人があらわれる。起業家には、まわりが支えたくなる魅力も醸し出していることを感じます。

最後に

起業家本人の名前で書かれた本は、ビジネスに直接、関係なさそうな「生い立ち」や「自身の思想」が前半に書かれていることも多い。ときに冗長な印象を受けますが、それでも、ライターが書いた読みやすい起業家本よりも、起業家本人の名前で書かれた無骨な本のほうが、個人的には好きです。

また、起業家本は、それぞれの起業家のこだわりやビジネスの特徴もあるので、ムリに抽象化や共通化して、理解しようとするよりも、一つひとつのオリジナリティとして、そのまま理解しようとしたほうが記憶に残る気がします。

その前提に立ちながらも、あえて今回の5冊の起業家に共通して感じたのは、松岡修造さんの「がけっぷち、ありがとう」の精神。

資金調達の困難や売れないつらさ、仲間との別れなど、苦境に立たされても、起業家は苦しいときほど「前のめり」であり、ポジティブな気持ちであふれている印象でした。

久しぶりに読み返しましたが、今さらながら、年を経て読み直すと、新しく読み取れること、気づくことが多いことを感じました。数年後に読んでみたら、また違う学びがありそうです。

おわり