あきぞらのはて。 -06-
「ごめん、ティラ。ちょっと、ついて来てくれない?」
「え?何、リリカ、用事あるんじゃなかったの?」
「うん。だから、それにあなたも付き合ってほしいの。」
「へ?そう、なの?」
「ええ。…できるだけ急いで。」
「え?…わ、分かった。」
用事、というのは。
そもそも、エリオットさんに会って、今後の話をすることだった。
それに、彼女を交える。
急を、要するからだ。
まだ彼女が同胞だと決まったわけではないけれど、
いずれにせよそれを確かめるには、族長の助けが必要だ。
もし、同胞なら。
――空への憧れが強くなりすぎる前に、彼女に翼を思い出させてあげなければ。
落ち着いて、冷静にならなきゃ。
間に合ったのだから、彼女はもう大丈夫。
――長と話して、本当の名前を思い出しさえすれば。
思い出せなければ、彼女は――
いや、それは考えない。
「お待たせ、準備出来たよ、リリカ!」
「分かったわ、行きましょう。」
「どこへ?」
待ち合わせ場所は、――そう。
「屋上よ。」
屋上では既に、族長が待っていた。
「あ、やっと来た。」
“普段”の口調で声を掛けようとした彼は、客人に気付いて“仮面”をかぶる。
「……遅かったね。」
私は元々が似通っている分、気楽だ。
「ええ。…ごめんなさい、彼女も、良いかしら?」
すると彼は、状況について来れずに困惑しているティラを一瞥すると、少し考え込んでから。
「ふうん。――…やっぱり、そうだったんだ。……じゃ。俺、エリオットっつーんだ。よろしく!」
――急に笑顔になって、更に彼女が困惑するような事を言う。しかも態度まで“普段”に戻っている。
ああ、まったく。
とりあえずティラから少し離れたところへ、彼と移動する。
そしてやっぱり、小声で。
「……貴方は何故、然るべき順序で物事を進めないのですか…」
「あれ?もしかしてまだ未確定?」
「そうでなければ貴方の元へ連れて来たりなどしません……」
「え、そろそろユリアにも判断、つくかと思ったんだけどなー。」
「そう簡単に判るようになるのなら、我々がわざわざ組んで行動せずとも良いはずでしょう?」
「あー、まぁそういえばそうだなー。」
実際のところ。
私にはまだ至らぬところがございますのでご足労願いますでしょうか、と
結構頼んで来てもらったというのに彼は、それをすっかり忘れている。
一体どういうつもりで彼は、ここに来ているのか……
いや、来てもらっているという表現の方が合っているのだけれど、しかしそれにしても、…何というか、雑すぎる。
私たちの正体は、ぎりぎりまでばらしてしまう訳にはいかないというのに。
「あ。俺今ユリアが何考えてんのか、何となくわかったぞ。」
「そうですか。……それは、失礼致しました。」
「いや、俺は別に良いんだけどさ。…ユリアはユリアでもうちょっと、肩の力抜いたらいいんじゃないかなーって思うけどな。」
「そう、ですか?」
「そうだよ。…だって、仲間がいるかもっつったって、いる時ゃいるだろうし、いない時は何処捜したって、いないだろ?」
確かに、そうかもしれない。
…いや、その前に。
とにかく、これではティラが完全に置き去りだ。
とりあえず、事情を説明しなければ。
「えと…ごめん、何の話? 何でリオンさんがいるの? ていうか閉門の時間過ぎてるし、てっきり外で話すのかと…え、どういうこと?」
「……ごめんなさい。ちゃんと説明するから、落ち着いて。」
――説明を始めるのには、それから数分の時間を掛けなければならなかった。