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僕はずっと彼の歌を待っていた気がする。GOOD GRIEF / BERNARD BUTLER

バーナード・バトラーの新譜が出ると聞いて、心がざわついた。

まず、アルバムに先行してリリースされた曲のビデオが、あまりにも良かった。と言うか沁みた。

あのブリットポップ狂想曲の前夜、90年代英国ロックを席巻したバンド、スウェードの、ボーカリスト、ブレット・アンダーソンと並び立つバンドの顔であるギタリストは、バンドが頂点を極めると、早々と脱退を表明して、ユニットやソロ活動を行う。

もちろんその流れも追っていた。オアシスやブラーが先導してゆく当時のロックシーンでは、バーナード・バトラーの存在はきわめて異質だった。

脱退の理由として、本人の口からも語られていたが、バンドが大衆を煽り立てるように、大言壮吾を吐いたりスキャンダラスに振る舞ったりするのが、嫌だったらしい。
だがそれは、ロックというキッズ発のビート音楽が不可避的にはらむものであり、ボーカルとギタリストのルックスもあってスウェードのジュネ的世界は絶妙なバランスの上に成り立っていたし、リアム・ギャラガーは現在にいたるまで、ラウドに悪タレを吐きまくっている。

他でもない、バーナード・バトラー自身が、ロックミュージックのキッズ的ケミストリーを(おそらく体感的に)知り抜いていて、裏方にまわった時、リバティーンズのプロデュースなどにも奏効している。

刹那的に輝くもの、やぶれかぶれなほど美しいもの、とソロとしてバーナード・バトラーが描くものは、遠く離れている。
静けさ、と呼んでいいほどに穏やかで、微温的なのだ。時を経た彼の歌声は少ししゃがれていて、優しい。巷に溢れる音楽のように衆目を集め、嵐を呼ぼうとはしないけれど、地に染み込む雨のように鳴っている。

振り返れば長い年月、触れていなかったのではなく、どこかで彼の音楽は鳴っていたのではないかと、錯覚させるような、古くも新しくもない楽曲。
そして、隣にいる者を見失ったかのように、僕はずっと彼の歌を待っていたのだと、思わせる楽曲。

キッズミュージックの終わりを、僕たちは体験するかもしれない。
だとしたら、それはこんな音楽かもしれない。
とにかく掛け値なしの傑作、極めて簡潔に書かれた歌詞、どこにも力が入っていない分、魂に少しでも飾り気や驕りの嘘があるとバレてしまうような、残酷なところで表現されたものだと思う。

(随分後になってから、だけど、スエードのキラキラな二人は色々と語ってくれている)



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