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稀少な技術で作られた、オーダーメイドニット〜カシミアのインターシャ
ニットの中でも別格とされる、カシミアのニット
そのクオリティは、砕けた言葉でいえば、ピンからキリまで、英国スコットランド産の糸によるものが有名ですが、ニットの最高峰はおそらく、イタリアのバランタイン社による通称バランタイン・カシミアで、自分も1つ持っていますが、質感、着心地、耐久性ともに、他に類を見ません。
ニットは編地の表現方法に於いても、ある意味無限にイメージを拡げられると、アパレルの企画をしていた頃先輩から教えられました。
特注でオリジナルの布を造らない限り、既にある生地に色柄が制限される布製品とは、そこが違うのだと。
インターシャと呼ばれる特殊技術
色柄物のニットで、完全に自由、とまではいかなくてもイメージを大きく拡げて絵柄を載せる事が可能な製法に、インターシャと呼ばれる特殊技術があります。
特徴として、大きく柄を入れながらもジャカードに比べて格段に薄く(ゆえに軽く柔らかく)仕上がり、発色も抜群な事で知られます。
インターシャを用いたニットで有名なところでは、アーガイル柄の英国プリングル、そして前述の、カシミアを用いたイタリアのバランタインなどが挙げられます。
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さて、自由な発想で絵柄を入れられる、と言っても、例えば犬猫など動物の絵柄を入れると、どうしてもオジさんオバさんゴルフ的になってしまい、高価になる事からも、自分から触手が伸びるような物ではありませんでした。
ところが、
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「カシミアの魔術師」の登場
ご存知の方も多いかと思われますが、「カシミアの魔術師」と謳われる、ルシアン・ペラフィネ(lucien pellat-finet)の登場により、スコットランド産カシミア・ニットにポップな図柄が載る事になりました。
世界中のファッション好き、それも製法の難しい物や稀少な物に目がない、通で粋な人、玄人筋から注目を集めたのも、頷ける話です。
想像力は無限、上の写真のように、単色、もしくは数少ない色目で構成される絵柄に関しては、今ではそれほど高価ではない製品でも可能になってきた部分がありますが、
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多色使いとなると、値段は跳ね上がります。
Diorのようなメゾンブランドならば致し方ないとしても、他を見まわしても、カシミアのインターシャで細かな色使いのニットで、しかもオジさんゴルフ的ではない物を、探してもこなれた値段の物はあまり見当たりません。
多色使いはなぜこんなに値段が高い?
なぜ、どうして?
いつものように、あれこれ考えるのではなく、経験して答えを見つけようとしました。
店舗で、オーダーメイドでお客様から受注をとるためのサンプルを造ってもらえないか。
もちろん、日本のファクトリーさんで。
まず、そんなことを請け負ってくれる所があるのだろうか?
こちらがニット化を希望するグラフィックは、柄が細かく、しかもかなり多色を使っているのです。
マーケットを見ても、他に無いような代物でした。
自社サンプルを造ってみる〜人の手による創造が込められたニット
難航しましたが、造ってもらえそうな所を見つけました。
そして、答えは簡単に見つかったのです(下のビデオをご覧ください)。
とてつもなく、それは、手のかかる作業でした。
依頼した当人の口から言うのもアレですが、「気の遠くなるような」という言葉がぴったりに感じました。
身が引き締まる思いがしました。
適切な例えになるか分からないのですが、プロ野球選手がペラフィネのカシミア・インターシャのニットを好んで買うのも、当然に思えました。
熾烈な競争に勝ち、一流の中でもトップで輝いている時に買って、身に着けた物には、特別の意味があると思います。
店舗では、象徴的な商品である事の意思表示として、額装してディスプレーしています。
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サンプルの出来に驚く
商品価格は¥198,000、さすがに最高峰のカシミア糸を使用すると、値段的にとんでもない事になるので、配慮しましたが、サンプル製作に際して、バランタイン・カシミアニットを渡して、クオリティの参考にしてもらいました。
世界最高峰のニット、でもインターシャに関しては、世界レベルに達しているというか、凌駕している、と思えました(手前味噌ですが、職人さんへの賛辞として)。
よくまあ、こんな細かい色柄を、と先の動画に触れているから、思うわけです。
他に、ここまでやっているブランドが、ファクトリーさんが、あるだろうか?と客観的に見ても、思います。
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シーズンレス、流行にも左右されず
カシミアのニットは今や、秋冬だけの物ではありません。
ハワイなどでも、ちょっと肌寒い夜にはカシミアのニットが恋しくなるし、強冷房の店や飛行機では膝掛けで使いたくなります。
そして、流行に左右されず、良いニットであれば、すり減りやほつれにも強く、もし部分的に壊れてしまっても、キレイに修復することも可能です。
ファクトリーさんからは、お客様からのお直しは受け付けてもらえると、確約しています(生産時の糸や機械、あるいは職人さんに直してもらえれば、当然仕上がりも違います)。
ただし、「その時までウチの工場が続いていたら、だけど」と条件付きで。
私が仕事をしてきた時間内(2つの世紀と2つの年号にかけて)に於いても、アパレル業界にはじつに様々な事が起こったのですが、その1つに、「国内から失われてしまった技術(生産背景)」というのもあります。
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*時期により、多少の変更があります。
店では、オーダーメイドでお客様にニットをお造りしています。
多くの色からベース色を選んでいただき、ボディサイズもSMLなどの規格ではなく、本当にお好みのジャストなサイズで着ていただけるよう、細かく話し込みをしてゆきます。
ニットに使用する糸も、駄洒落ではないですが、そう、お金に糸目をつけなければ、より高いクオリティのカシミアで仕上げる事も可能です。
一生物の服、そして未来のヴィンテージ
なぜなら、季節を問わず、流行にも左右されない、カシミアニットは、インターシャであれば、まるでプリントTシャツのようにカジュアルに着られながら、柄の鮮やかさも、品質も、劣化しにくい(お直し可能な)、まさに一生物で、生産の難しさや稀少性から将来はヴィンテージとなる可能性もあります。
上の野球選手とペラフィネのニットの話ではないですが、葬儀で人をお見送りする機会があり、思いました。
棺の中に、愛用の服を入れますよね。
私の場合、レザージャケット?いやいや、燃えないかもしれないし。
あの世でも、着たい服。どんな気候か分からんし、寒いか、暑いか、バイク標<しるし>の、このニットなんかいいな。
縁起でもない、なんてどうぞおっしゃらずに。
めちゃ仕事をしている時、健康に翳りなど微塵も見当たらない時、人はこんな事を思ったりするのかもしれませんね。
自分のも早く造れるよう、がんばろ。
速く、でないと間に合わないかもしれないから。
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サンプルが上がってきた時、一緒にこの絵を渡されました。
「他のファクトリーさんでも造れるように」って事?
お問合せ、お待ちしています。
でも、もしかしたら、もう造れないって事になったら、ご容赦ください。
アパレルでは、珍しくない事なのです。