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「早い、うまい、安い」だった頃の吉野屋は私の憧れだった


吉野家のキャッチコピーが現在の、

「うまい、安い、早い」(2001~)

の前の、

「うまい、早い、安い」(1994~)

より前の、

「早い、うまい、安い」(1968~)

だった頃のある日、私は猛烈に吉野家の牛丼への想いを募らせていた。なぜなら、クラスの男子が牛丼を食べに行った話を偶然耳にしてしまったから。

当時の吉野屋は現在のような明るい雰囲気はまったく無く、いつ見ても大人の男性客ばかりで、なんていうか、女子供が気軽に立ち入れるような場所ではなかった(私の印象)。

だから、吉野家は忙しい大人の男の人が腹ごしらえをしに行く場所だと勝手に思い込んでいたし、私の目には立ち入り困難な「大人の男の世界」に見えていた。

そのため、そんな大人なところに飛び込んで牛丼を食べるなんてことをやってのけた男子たちがすごく大人びて見えて、憧れる気持ちが強くなっていったのだ。

年頃だった私は「大人の店吉野家」に行ってみたいなんて親に言えるはずもなく、行きたい気持ちを抑えながらしばらく悶々と過ごしていた。

そんなある日、チャンスは突然舞い込んた。年の離れた姉兄のいる少しませた男友達ノリ君が吉野家にたまに行くというのを耳にしたのだ。

ノリ君に話すと、すぐにその願いは叶った。

憧れの吉野家は、やっぱり大人の男の世界だった。事前に聞いていた「並」というセリフにもドキドキした。

牛丼はすぐに私の目の前に。割り箸も紅生姜も七味もすべてが新鮮。一口食べたら……恐ろしく美味。すべてが最高&感動だった。

驚いたのが、大人の男たちが「ごちそうさまー」とか「ごちそーさーん」と言って席を立つのだ。

私はびっくりしてノリ君に小声で「みんな『ごちそうさま』いうの?」と聞くと、「ん?言うよ」と普通に答えたので、思わず「ほー!」と感心した。

そして、お腹を満たした男たちの背中を送り出すように「ありがとうございましたー」と店員さんが返事。

私はお行儀の良い大人の男たちと店員さんのやり取りにえらく感動して、すごくあったかい気持ちになった。

少し恥ずかしかったけれど、もちろん私も「ごちそうさま」を言った。すると、店員さんは大人の男に言うのと同じように「ありがとうございましたー」と言ってくれた。

お腹も心も満たされた私の初吉野家だった。

*

今朝のニュースで値下げのことをやっていたので、当時のことを思い出しながら、かつて憧れた吉野家に久しぶりに夫と行ってみようと思う。

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