ジーナの悩み
エジンバラの8月の終わり。
世界中の大道芸人やパフォーマーが集まるFringe Festivalも終盤になって、
観光客の多さや 跳ね上がるrent、詰まり放題のtrafficにため息をついていた地元スコッツたちも、もうすぐ戻ってくる平穏な日常を楽しみにする頃。
1ヶ月かけて開催されるミリタリータトゥーの終わりには、Edinburgh Castleで盛大なFireworksが行われる。
この日は、フラットメイトだったジーナとNorth Bridgeまで花火を見に行った。
南米出身の彼女はいつも明るく、優しくて思いやりのある雰囲気に包まれている。フラットメイトにするにはパーフェクトな気立てのいい子だ。
ポジティブで愚痴ひとつこぼさない彼女を見ながら、小さなことでも音をあげるような私と違って、なんて出来た性格なんだろうと尊敬の眼差しで見ていた。
この日は、そんな彼女から「相談にのってほしい」と切り出されて、ちょっとびっくりしたのを覚えている。
それでも、これまで取り乱す姿も、嫌な顔するのも見たことがなかった
彼女の「人間」な部分を感じることができて 内心ホッとした。
ある仕事のオファーをもらったんだけど、それをするにはエジンバラを離れなくちゃいけない・・・自分にとってやりたい仕事のはずなのに、勤務先になるその場所のことを考えると、なかなかYes! と言えない。
ここに越してきてからずっと、都会すぎないこの街に大きな愛着を感じているのに・・・
と。
夜の街を歩きながら、「遠く離れた地での新しいチャンス」と、「大好きな街に住み続ける」ことの間で揺れ動く彼女の話を聞いていたら、私のクセで足取りも遅くなってしまったので(笑) 「もうちょっとゆっくり話さない?」と言って、私たちは近くのパブに入った。
ラグビーファンっぽい集まりの近くにちょうどいいテーブルがあって、
ふう〜 と一息つきながらジーナはワインを、私はウィスキーをそれぞれおいしいくいただきながら、これまでの彼女のストーリーに耳を傾けてみる。
そんなとき、ハッと思いついてこんなことを言ってみた。
「いっその事、コインに決めてもらったらどう?」
(笑)
半ば遊び心で出てきたことだけど、意外といいアイディアな気がして、
悩める彼女にポンっと言ってみた。もしコインの面で出た結果に納得いかないなら、もう一つの答えの方にしっくりくる部分があるってこと。
やり方は簡単。
質問を決めて、コインの表が出たらYES、裏が出たらNO。
この軽いノリに、彼女はすごく興奮して"大賛成!"してくれた。
そこからは、パブの真ん中で、まるで魔女が秘密の儀式か何かを繰り広げるような、なんとも言えないゾクゾクするような、ハラハラするような空気が私たちの中に流れた。
OK.... my question is....
"Am I going to take the job? "
彼女がそう質問を決めて、
"じゃあ、1ポンドコインのThistleが出たらYes、Queenが出たらNo ね。"
とふたりで頷きながら確認する。
そして、どんな答えが出るのか・・・わくわく、そわそわした目をしながら
ジーナがコインを勢いよくフリップする。
すると 宙に舞ったコインは・・・・
待ち構えていたジーナの両手のひらに戻ることなく
なんと彼女が飲んでいたワイングラスの中に ポチャン! と入ってしまった。
この予期せぬ展開に ふたりで「うそでしょ!?」と面白おかしく目を大きくしながらグラスの中身を見てみると
そこにはQueenの面が出たコインが沈んでいた。
ー NO ー
ジーナの顔を見上げると、目をキラキラさせている。
霧が晴れたようなホッとしたような表情だった。
すごいすごいと言いながら
「やっぱり、これで良かったんだ!」
と、息が弾んでいる嬉しそうな彼女の様子。
それを見て、わたしも自分のことのようにホッと、肩の力が抜けた感覚だった。
あえてワイングラスの中を目がけてきたコインを見ていると
余計にこれが 神さまが 彼女を笑顔にするために起こしてくれた いたずらのようにも感じられてくる。
「こんなめったにないこと、神様がメッセージをくれてるってことかもね!」
「本当にその通りよ!」
と感激を隠せないジーナ。
胸のつっかえが取れ、「神様がくれた」安心させてくれたメッセージに
ジーナもわたしも喜びを隠せず
これはもう、飲み干すしかないよね!
と彼女はその奇跡のメッセージが入ったワインを美味しく最後までいただき、わたしはその記念すべき瞬間を何枚か写真にとって、翌日彼女にプレゼントした。
奇跡のコインフリッピング✨
この後わたしたちは足取り軽く、ほくほくとお家に帰って行ったのでした⭐︎