毎日が吉日
ワークビザという希望の光をなくした私は、再び仕事を探すことにした。
「何かあったら、いつでも戻って来なさい」という、前に働いていたパブのマネージャー、スティービーからの心温まる言葉が、毎朝ベッドから起きるたびに何度も聞こえて来た。
携帯の電話帳でスティービーのページを開いては、”Send text message”のボタンを押そうとするも、正直、昼夜混合したシフトにはもうこりごりになっていて、踏みとどまっていた。「パブには戻らない。」自分の中で、パブは最高の楽しい思い出にしておこう。そうして私はまた、自分の中で新しいページを開くことにした。
ニューイヤーシーズンで一層賑やかさを増し、笑顔と幸せに満ち溢れていくエジンバラの街で私は、CV(イギリスでいう履歴書のこと)をエジンバラの店という店に配り始めた。
大晦日の前日。
街がパーティ一ムード一色で賑わっている時に、誰が「私に仕事をください」と店を歩き回るだろう?・・・この私だ。
「1月から空いているポジションはありませんか?」「明日からでも働けます」と笑顔でCVを渡し、次の店へ向った。あるショップでは、店員にCVを手渡し、私が振り返るやいなや、後ろの方からスチールのゴミ箱にスコーン!と、CVをそのまま捨て入れる音が聞こえてきた。
レストラン、カフェ、本屋、雑貨屋、アパレルショップにキルトショップ、ホテル。どこでもよかった。
大好きなBroughton Streetを経由しながら家に帰る。家まであと10分というところで、ポツンとたたずむカフェを見つけた。
こじんまりとして誰もが素通りしてしまいそうなカフェ。生活費を稼げるなら、もうどこでも構わないと、ドアを開けた。
ブロンドのポニーテールの女の子が、「うちはスタッフは間に合ってるから、渡すだけ紙の無駄になると思うけど」と言いながら、「Just in case(でも何があるかわからないから念のため)」と言うわたしのCVを「No problem!」と快く受け取ってくれた。「これもまたゴミ箱行きだったりして」そう思いながら、その小さなカフェを後にした。
新年も明け(ニューイヤーズ・イブは、友達のマシューとデビー、その友達何人かとHogmanay(ホグマネイ・・・スコットランドの大晦日)をお祝いし、とても楽しいものになった。)もうどこにCVを配ったなんて忘れかけていた頃、携帯が鳴った。
「Haruna?マジックコーヒーのレイモンドです。」陽気で朗らかな口調に、聞き覚えのない店の名前。とりあえず、コーヒーショップからだということだけはわかった。「この前、うちのスタッフの子にCVを渡してくれたね。今ひとり空きが出そうなんだけど、よかったら近いうちにインタビューに来てみない?」
「もちろん!」
何がなんだかわからないまま、とりあえず翌日に面接(インタビュー)を取り付け、嬉しい気持ちで、電話を切った。
メモした住所と年末のかすかな記憶を手繰り寄せて、あの小さなカフェからだとわかった。キッチンの横で1人携帯を握りしめながら、いい予感に包まれていた。