
スペインの魔女との出会い
エジンバラに来て初めての11月。
日本人にとっても 仕事のチャンスも多いロンドンに下見も兼ねて面接のため数日間滞在していた私は、最後の企業で面接を終えた その足でStansted Airportに向かいました。
エクスプレスで窓の外をぼーっと眺めながら、終えたばかりの面接のことや、この4日間の滞在のことを考えていました。
Oxford Circus, Liverpool Street...と駅ごとに変わっていく風景と一緒に、気持ちも都会モードになったり、人混みが落ち着くと気持ちも穏やかになったり。
とても好感触だった面接とは裏腹に、ここに暮らす自分を想像しただけでも、どこか落ち着かない そわそわした気持ちが漂っていました。
ついこの間まで東京に住んでいたのに、ロンドンに来ても馴染めないなんて・・・ でも、住めば都かも。
この4日間 面倒を見てくれた日本人の友人の言う通り、ロンドンの良い所、まだ見られていないだけ・・・。
でも... 面接に受かったら、私はまたオフィス仕様の格好をして、東京にいた頃と変わりなく朝と夕、あの 地下鉄の tube に大勢の人と一緒に乗り込まなきゃいけないのかな?
私、・・できる・・かな・・?
- * -
空港に着く頃には チェックインカウンターを探すことで気が紛れ、
セキュリティを通り、ゲートに向かって・・・
と おなじみの一連の儀式をしているうちに
面接仕様に無意識に作り込んだ自分の気持ちや、ピンとした表情、背筋は
次第にほぐれていました。
機体に乗り込むと 機内の温かさやキャビンクルーの方たちの自然な表情、音楽で一気に気持ちが緩みます。
自分のシートを探しながら進んでいくと、
ひとり、本を読む女性が右の奥の方に見えました。
黒髪のロングヘアに 彫りの深い目鼻立ちー 優しそうな目元で読書する姿は、温かさと同時に エキゾチックで独特の雰囲気を醸し出していました。
自分のシートを探していた私の目は、彼女に釘付けでした。
他の乗客たちが少しずつ乗り込む中、気のせいかもしれないけれど、彼女の周りだけ、なんとなく異空間に感じられたのです。私は引き込まれるように彼女の方に近づいていきました。
パッと席の番号を見ると、チケットに書かれている私のシートの番号がその女性の隣でした。
この不思議な流れに少し驚きつつ、笑顔で 窓側の席いいですか?という私に、読書していた手を休めて 彼女は同じく笑顔で、快く窓側の席に私のことを通してくれました。
私の大きなバックパックを上に収納するのを手伝ってくれ、そこからは彼女との会話が自然と流れていきました。
(ここまでのくだりを、後に付き合った彼に話したら、それって完璧な一目惚れじゃん!と冗談混じりに大笑いされましたが 笑)
低めの、落ち着いた口調で控えめに話しをする彼女の内側からは、情熱的なところや、親しみやすさが滲み出てくるのを感じました。
ロンドンには旅行?それとも?
カンファレンスに行っていたのよ。
アフリカの女性の自立がテーマのイベントで色んな人に出会えて、自分にとって、意味がある事だったと思う。
笑い皺の深みのある目で、まるで遠くを見るようにそう振り返って
「あなたは?」
そう聞く彼女の質問に私も、
この夏からエジンバラにいることや、
仕事のチャンスが多いロンドンに、試しに何社か面接を受けに来て、どう感じるか見てみようとした今回の滞在のことなんかを話しました。
(滞在中、リラックスしたくて、海のあるブライトンまで足を伸ばし、ロンドンの友人に怒られたことも 笑)
離陸のアナウンスや機内サービスで、途中、余白をはさみながら私たちの会話は本当に自然に流れていきます。
偶然。私も同じ8月にスペインから来たのよ。
この本、読んだことある?
そう言って、大事そうに持っていた本を見せてくれたり。
(何度も読み込んだような手馴染みのいいペイパーバックで、スピリチュアルなタイトルが、その時の私にはとても素敵なものに写りました。)
時には彼女の通路側に座っている全身ベージュの大柄の男性も、
“自分もこれからエジンバラに戻るんだ”と会話に入ってきたり
帰りのフライトはとてもホッとするひと時で、ささやかなプレゼントに感じられました。
+ + +
“Nice meeting you.”
エジンバラは小さいから、またどこかで会うかもね。
お互いにそう言いながら、
バッグパックの中身を整理する私と、到着後の人の列に飲み込まれていく彼女はそこでお別れしてしまいました。
でも、やっぱりそこは小さなエジンバラ空港。
到着ロビーで彼女と再会し、バス乗り場でドライバーに急かされながら、彼女は自分の名前と電話番号を走り書きした紙切れを私に手渡してくれたのです。
Julia
074xxxxxxxx
帰りのバスで、重いバックパックを下ろし 一息つきながら、この新しい友達へのテキストメッセージを送り、しばらくするとバスは最終ストップのPrinces Streetへ。
するとバスの窓からは、ジュエリーのようにキラキラと輝くイルミネーションが見えます。
クリスマスマーケット!
ロンドンに行く前はまだなかったのに!何てきれいなんだろう!
予想もしていなかった光景に見惚れながらバスを降りると、
そそくさと後ろからさっきの大柄の男性も出てきて、道路向かい側のバス停に大急ぎで走って行きました。
なんて小さな世界なんだろう!
エジンバラでは犬も歩けば棒に当たるって、本当だなぁ。
あらためて、イルミネーションのあるプリンセスガーデンの方を見ると、
もう人通りもまばらな静かな中、盛大にライトアップされているイルミネーションが、こちらに向かって輝いてくれています。
Welcome back! おかえり!
そんな風に、私に語りかけてくれているように感じました。
携帯を見ると、ジュリアからのメッセージが。
“It was nice meeting you, Haruna. Have a safe trip home:) “
その日から数日たち、
私たちは、コーヒー、時にはワイン、ビールを片手に近況報告をしあういい友達になったのでした。
今でも、自分の夢のために奮闘する彼女の姿は、私のロールモデルになってくれています。
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