初めての鬼 (ショートショート)
稔は初めての鬼ごっこが忘れられない。
まずルールを知らなかった。そこの公園は越したばかりで初めて来た。遊び相手も初対面だった。じゃんけんでいきなり鬼になった。
動かぬ稔に対して、彼らは木陰や滑り台からどうすべきか教えてくれた。
「鬼はな、こっちを追いかけたらいいんだよ」
「ぼくは人間のつもりだよ」
「鬼だろ。でも誰か捕まえたらそいつが鬼になるから」
「それも嫌だよ」
稔が動かぬまま泣き始めると、横から土煙が湧きシュッと伸びて彼らに向かった。稔の母だ。母の太い腕の中で彼らが泣く。
「よくもうちの子が鬼だと言ったね。人間として溶け込もうとしているのに虐めるのか」
「母さん、やめて」
母はすぐ勘違いに気づき、頭の上のツノを隠し、牙もなくして普通の人間に戻る。
「なんだ、遊びだったのか、早速正体がばれたかと…」
母はすぐに彼らの記憶を消去したが、稔本人はそれがトラウマになった。
未だ人間にも鬼にもなりきれず悪役専門の役者になった。
ありがとうございます。