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違法の冷蔵庫

 玄関に出ると着ぶくれした刑事が数名俺を睨んでいた。彼らの皮手袋には手錠が光っている。刑事は勝手に俺の部屋に入った。
「ここか」
 次に刑事は部屋の隅の冷蔵庫を開けた。
「やはり中身は大量のイモッ」
 アンティークな冷蔵庫に似せた温蔵庫から暖かい湯気が出た。刑事はイモの匂いに深呼吸して、うっとりと目を閉じる。それから俺を再度睨んで手錠をかけようとする。俺は温蔵庫を抱きしめて抵抗した。
「なあ、一緒に食べよう」
 すると刑事は目を輝かせて手錠を放り出した。ふかしたてのイモは最高だ。火というものがなくなり、文化が後退しつつある現在、暖かい食べ物は許可なしで作ることも禁止されている。ふかしイモは禁制品の一つで刑事でさえ陥落する。俺はこれらを闇市で有り金はたいて購入した。
 刑事はその場で温蔵庫を処分すれば逮捕はしないと言った。サツマイモはすでに俺たちの腹の中で処分済みだ。ああ、ふかしイモよ。イモを泣く。イモ死にたもうことなかれ。


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