誘惑銀杏　(バレエショートショート)

　藍の通学路に、銀杏並木がある。遠方から観光客が写真を撮りにくるぐらい有名だ。夏も盛りを過ぎ、銀杏の葉も黄色味を帯びてきた。
　藍は朝早めに家を出て、銀杏並木を歩く。秋の空は高く、銀杏も高く聳え立ち、薄青と黄色の対比が美しい。空気は綺麗だし、深呼吸を繰り返して気分良く歩いていた。この時間は観光客もいない。だが犬の散歩をする人が多い。だがその日は誰もいなかった。

一度これをやってみたかった。

　藍は銀杏に誘われるように通学バッグを木の根元に置き、踊り始めた。
並木の端から端までグランジャンプを続け、次にアラベスクを高い位置で
キープしたまま、移動する。黄色い葉が降りしきる中、フェッテを続けるのは、とても気分がいい。これは最高の舞台だわ……バレエコンクールの審査員もこの踊りを見てくれたらきっと金賞をくれるはず。

と、思いきや、たくさんの拍手が沸き上がり、藍はびっくりする。いつのまにか、大勢の犬連れや観光客の人がいて取り囲まれていた。

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今週のお題は「誘惑銀杏」です。