ゴバスタで地球ヲ救ぅ 第3話::出会っていた
アキラは無意識に海坊主ぼるぞいぼおい に時計を向けた。するとアキラの脳裏にぼるぼいぼおいの思考が流れてきた。
戦いに勝ったらこのバレリーナを拉致して毎日踊らせてよう
時計の文字盤が変化してランキングボードになった。そこには既知数ランキング外、無名とある。
……あんなに威張っているのに、無名?
アキラは笑ってバッセたちに知らせた。
「ぼるぞいぼおいは確かにレベル39だけど、無名だよ」
ぼるぞいはアキラの声が聞こえたようで狼狽した。アキラは防御エフェクトを首にしっかりと巻き付け、火山灰から創られた火山剣 を構えた。ところが海水にやられて溶けてしまう。
パドウシャが叫ぶ。
「その剣では無理だ。きみはママの警護を頼む」
「わかった」
バッセ、ピッケ、アントとルッシャ、パドウシャが四方からぼるぞいぼおいを囲む。バッセが胸から光線をだすとなんとぼるぞいぼおいが縮み、逃げようとした。バッセの手はアンオーといって、バレエで両手をあげるポーズで胸から光を出す。ぼるぞいぼおいは、顔にまともに光線を受けて苦しむ。
「見たか。このバッセのブレストブレイク光線の力を!」
アキラはバッセの強さに驚く。
「すごいじゃないか。それだけ善行を積んでグッチャを貯めてガチャしたのか」
小さくなったぼるぞいぼおいが突然消えた。同時に海の風景も消えて水浸しの部屋に戻る。
「あっ、逃がしちゃった」
バッセが悔やむ。
「ぼるぞいぼおいは逃げ足が速いんだ。だからあいつはずっとレベル39なんだよ」
そこへママの声が響く。
「あなたたち、部屋の掃除を手伝って」
「あ~あ、ゴバスタの中で戦闘をやっていたらこんなにならないのに」
ありったけの雑巾で拭き掃除をしていたら、マリウスプテパの声が上空から聞こえてきた。
「このたびは迷惑をかけた。正式に取り決めをしてはいても、ルール破りのヤツもどうしても出てくる。掃除はわしがやる」
なぜかホルンの音がした。すると海水がみるみるうちにひいていく。キッチンのイスやテーブルがみるみるうちに乾いてくる。
バッセが言った。
「マリウスプテパさま、ゴバスタの外でも戦場になるなんて困ります」
「わしもそれが不思議じゃ。ぼるぞいぼおいのレベルではこういうおきて破りはできないはずだ。そのうえ、わしはなぜかそこをゴバスタにできないし、そこへ行くこともできない」
アキラは、はっとした。突然脈絡のない考えが浮かんできた。
…それ、パパがやったのかも。だってパパはアデフからブラホに寝返ったと言うし。名前だってマリウスプテパさまたちが探している武藤武士《 ぶとうもののふ》だ…
ママが姿の見えぬマリウスプテパを叱った。
「あの偉大なコリオグラファーの名を騙るとは……姿を見せなさい」
きれいな部屋になった天井からマリウスプテパの説明が聞こえる。
ゴバスタは鏡の魔ということで、ブラホとの協定で地球人に迷惑をかけない目的で正々堂々と戦っている。しかし、そなたの家はゴバスタ登録以前の問題で敵方の戦闘士の壁と天井が出現しても損壊していない。海水だけは漏れたがそれだけだ。
「それがどうかしました?」
お前は、アキラの母親でお前のお腹の中で育てて産んだ子だな。その構造では生身の地球人であることは間違いない。しかし……お前たち、もしかしなくても武藤武士を知っているだろう。
アキラはどきっとした。イチゴ、ニゴ、サンゴ、シゴウの動きもなぜか止まった。ママはいぶかしそうに答えた。
「わたしの夫ですけど、それがなにか」
同時にバッセたちがママに向き直った。皆驚いている。
実は我々も彼をさがしている。そなたへ便りはないか
「個人情報ですし、その件では今は話はしません」
さすが武藤武士が選んだ女だ。たいしたものだ。
マリウスプテパの声が消えた。ママは不快感を隠さなかったが、バッセたちを見て考えを変えたらしい。
「せっかくだから気分を切り替えてお茶にしましょう」
ママは怒れる文鳥たちをかごの中に入れた。テーブルクロスをきれいにしき、小さな花束をその中央に置いて、お茶の用意を皆でする。
バッセはお湯をわかし、ピッケはお皿を用意し、アントとルッシャはママの指示で林檎とみかんの皮を剥かされている。パドウシャもやっぱりママの指示で生クリームを小皿に絞っている。地球でティータイムを楽しむのは初めてらしく嬉々としている。
バッセはバレリーナにあこがれているので、このチュチュを着ているというと、ママはバッセを抱き寄せて「ありがとう」 といった。バッセはうれしくて、ぼうっとしている。
リーンゴーン
全員が固まった。
「また何か、来たっ」
赤と青と黄色の風船が飛んできたかと思うと、見る間に風船が小さくなって文字の形になった。
「レベル77」
どうして?
皆が驚いて口々に叫ぶ。そこへファンファーレが鳴る。
バッセが立ち上がった。
「ここはゴバスタじゃないっていうのに、どういうことだ」
唐突に音楽が流れてきた。曲名は花のワルツ。バレエ劇のくるみ割り人形に出てくる。同時に壁の四方から色とりどりのリボンが出てきたが、すぐにほどけてそこから虹色のシャボン玉になった。シャボン玉が割れると花が咲く。その花が舞う。
「海の次はシャボン玉かよ」
「シャボン玉じゃないわ。これ、弾ける花たちの天国の壁と、弾ける花たちの天国の床よ。おまけに効果音がチャイコフスキーの花のワルツなら完品じゃないの」
「この効果音は地球の昔からあった名曲だよ」
「敵が出てこないじゃないか」
「こ~こ~に、い~ま~すぅ~」
シャボン玉が集まり、一気にはじけた。そこから大柄の女性が出てきた。
ジゼルの衣装のようなロングチュチュを着ている。
「アタシは、プリマ・ミジンギリ」
バッセが叫んだ。
「プリマ・ミジンギリ? 変な名前だけど敵ながら良い衣装だわ。二つ持ってたなら譲り合えるけど、敵なら無理ね。でも戦いに勝ったら壁も床も効果音もその衣装も私のもの」
「ふん。バッセか、お前は物知りで結構有名だがレベル50ぐらいでなにをほざく」
そこへママが叫んだ。
「それ、ジゼルの衣装だけ本物ね。でもあなたは姿勢がバレリーナじゃないわ。似合ってないわよ」
「地球人のくせに何をいうの」
「わたしは本物のバレリーナよ?」
「えっ」
ママは偽バレリーナに告げた。
「わたしには別名があるの。プリマクイーン・マリインスキ」
「えっ、プリマクイーン・マリインスキ?」
バッセも驚いている。アキラはわけがわからない。再びアキラの右腕の時計が重くなり、ブウンという旋回音がした。アキラは今度はママに時計を向けた。するとアキラの脳裏になんとママの思考が流れてくる。
武士から聞いて、いつかはアデフとあいまみえることがあるとは思っていたけどまさか今日だとは……
この背景とともに、既知数ランキング 4位と出た。
ママが宇宙の中で4位! 一体どういうことだろう。
突然ママは叫んだ。
イチゴウ ニゴウ サンゴウ シゴウ
ママの飼っている四羽の文鳥たちだ。イチゴウは桜文鳥、ニゴウは白文鳥、サンゴウはシナモン文鳥、シゴウはシルバー文鳥だ。全員ママになつき、アキラには威嚇してくる恐ろしいペットだ。彼らが自ら鳥かごのドアをあけ、出てきた。
「イケ!」
ママが叫ぶと文鳥たちの姿が変化した。
頭が黒くて喉元が白い、そして尻尾が長い文鳥の姿のままのバレリーナが出てきた。デザインは同じで色違いだ。ちゃんとトウシューズを履いている。
ママが叫ぶ。
前へタンジュ!
するとイチゴたちがさっと足を前に出した。
横一番
前に出した足をさっと45度右方向に4分の1に回転。横に広げた足が4羽分並んだ。
プリエ
イチゴたちは足を踏ん張って膝を曲げる。
ジャンプ
イチゴウたちは上方向に飛んだ。すると、ミラクルキャンデーの天井が一部破れ、雨ならぬ飴が落ちてくる。プリマ・ミジンギリがおじげづいている。まだ誰も攻撃していないのに。戦う前に、ママ、いや、プリマクイーン・マリインスキに土下座した。
「降参するわ。あんたがまさかのプリマクイーンだなんて」
「いいわよ。でもプリマを名乗るのは厚かましいからやめてくれる?」
「わかったわ。プリマ・ミジンギリではなく、ただのミジンギリにしますから許して」
「ええ」
バッセが「待って」 と止める間もなく、ミジンギリが去っていった。
グッチャ!
ママに向かって例のくぐもった音がした。え、もしかしてママもガチャが引けるのか。マリウスプテパが来れないのにどうするのだろう。
バッセが嘆く。
「いや~ん、バレエの衣装が欲しかったのに。あの人、あのお衣装が似あってなかったから戦ったあと私がもらいたかったのに」
「バッセちゃん、それなら私のお古でよかったらあげるわよ」
バッセが喜んでママにまとわりつく。ママの機嫌がまた直って女同士で衣裳部屋にひっこむ。男であるアキラはピッケたちと黙って紅茶をすする。
「まさかアキラのママがあんなに強いとは」
「名前を出しただけで勝つなんて聞いたことないよ」
「武藤武士の奥さんか~アキラは知っていたのか」
「なにも知らないよ」
やっとバッセがレオタードやチュチュをたくさん抱えて出てきた。アキラはママに質問する。
「ねえ、ママ、さっきの話だけど、どういうことなの?」
「あ~、わたしの夫、つまりアキラのお父さんからプリマクイーン・マリインスキという呪文名を預かっていただけ」
「呪文名ってなに?」
「私もよく知らないけど、唱えるだけで勝てる。私は実際にバレエが踊れるから特に。あのミジンギリが出てこなければ名乗らなかった」
ママは笑って話をはぐらかした。バッセも何も言わない。もしかして二人で密談したのか。時計がまた重くなったので、アキラはママにもう一度向けようとする。同時にイチゴウが腕にとまり、つめの下のササクレをびしーとむしったので痛いと叫んでしまった。一体どういうことだろう。
ありがとうございます。