天ぷら不眠 (ショートショート)
キスの天ぷらだ。しかも大量に揚げて大皿に盛り付けられている。さっくりとした揚げたての……ということは……恵は内心のがっかりを隠して、満面の笑顔を作り、「今日の夕食もとても美味しそうだね」と、妻という飼い主に笑顔を見せた。確かに美味しかった。
妻という飼い主はキスを頬張る恵を嬉しそうに見つめる。恵は食べるだけで終わるのであればどんなに良いかと思いつつ、麺つゆに浸したそれをやっとの思いで全て食べ終えた。
それから恵は笑顔を崩さないまま、立ち上がり、妻という飼い主の横に座って肩を抱いた。そして妻という飼い主の耳元でいつものセリフを囁く。
「今度は僕の番だ。愛を込めてキスをあげよう」
妻という飼い主はこの流れが好物なのだ。生理が終わったといっていたので今夜は恵を寝かせてくれないだろう。妻という飼い主に誠心誠意を込めて尽くさないと前任者のようにシュレッダーにかけられてしまう。それはイヤだ。
恵は今夜は寝てはいられない。
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