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誘惑銀杏 (ショートショート)

銀杏の精と桜の精の仲は険悪だ。

銀杏は言う。
妾は数億年前の先祖から遺伝子を引き継ぐ高貴な木柄。雄雌に別れ繁殖し、実は美味しいし、大木まで育つと四季を通じて美しい情景を描く。

桜の精も負けない。
桜の存在は人間どもから喜ばれている。満開の時期の、花見客の浮かれようをご覧なさい。そなたなぞ、臭くて嫌われる時期があるでしょう。

銀杏は怒った。
私が臭いのはわざとよ! 虫がつかないようにしているのよ! その実は美味しくて栄養があるのに、何を言うやら!

桜は笑う。
私なぞ人間を幻惑させることもできる。ほら私達の根元にはたくさんの死体があるわ。すごいでしょ。

銀杏は言い返した。
見てなさい。

銀杏はわざと大量の実を降らせた。実がつぶれて周囲が臭ってきた。だが、それは大勢の銀杏好きの人間を惹きつけた。彼らは争って銀杏を拾う。

桜はさくらんぼだって人間に人気があるから同じよと抵抗したが、そばで聞いていた水の精は「ちょっとちがう」 と、銀杏に誘惑杯の軍配をあげた。


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(追記)

銀杏が高貴な家柄ならぬ木柄を主張するのは、ジュラ紀(1億5000年前)から存在しており、植物界で現存している唯一の存在だからです。

ちょっと調べただけで奇妙な生殖能力もあり、掘れば面白い物語が作れそうですね。




ありがとうございます。