見出し画像

読書ノート 「聞き書 緒方貞子回顧録」 野林健・納屋政嗣 編

 緒方貞子は、日本の希望である。

 緒方貞子は、日本の進むべき道を示している。

 緒方貞子は、日本人初の国連難民高等弁務官となり、一九九〇年代の民族紛争における難民支援を指揮し、国や国際連合の枠を超え、誰も成し得たことのない仕事をした。

 緒方貞子は、五.一五事件で暗殺された犬養毅の玄孫である。

 緒方貞子は、学者である。

 緒方貞子は、満州事変について、関東軍の考えを、「富の不均衡を是正する」という貧困階級の理想としての「社会主義的帝国主義」と位置づけ、それが満州事変のエネルギーになったと解明している。

 緒方貞子は、戦前の日本は世界を見渡しての戦略的思考を持つことができなかったという。また現在の日本も、官僚化した政治家は内向き志向になり、安定を壊さず現状維持に努めるか、先のことを全く考えずに発言し安定を壊してしまう者しかおらず、組織から大きな戦略的思考を持つ人間が出てくるようなことはないのではないかと危惧している。

 緒方貞子は、女性で、妻であり、母である。

 緒方貞子は、ヒューマニストであり、徹底したリアリストである。

 緒方貞子は、傑出した指導者である。

 緒方貞子は、信念の人、行動の人である。

 緒方貞子は、アメリカに対して、国連難民高等弁務官として初めて、クルド難民の安全の確保を要請し、軍民協調の新しい形を開いた。

 緒方貞子は、相反するものを自然と内在させ、融合させた人である。

 緒方貞子は、国際主義者であり、真の愛国者である。

 緒方貞子は、チャーミングである。

 緒方貞子は、質問魔である。

 緒方貞子は、健啖家である。

 緒方貞子は、エネルギーの塊である。

 緒方貞子は、一番弱い立場の人間に寄り添うことを良しとした。

 緒方貞子は、救える命があるならそこで救うしかないと述べた。

 緒方貞子は、冷戦後の世界秩序が大きく変化する中で、紛争の性格そのものが様変わりした時代に、国連の対応のあり方を形作った。

 緒方貞子は、アマルティア・センとともに「人間の安全保障」の概念を形作った。

 緒方貞子は、寝る前に必ずジン・トニックを飲んだ。

 緒方貞子は、子供の頃、天文学者になりたいと思ったことがあった。

 緒方貞子は、「自分は時代の要請に応えただけ」と幾度も言った。

 緒方貞子は、現在は世界的な構造変化のなか、小手先の改革ではだめだと言った。

 緒方貞子は、2019年にこの世を去った。

 緒方貞子は、多分怒っている。ポピュリズムがはびこり、パンデミックが世界を分断するなか、ことさら自国主義に、自分本位になっていく日本、日本人に、「他者を知れ。世界を知れ。多様性を身に着けろ。縮こまるな。正しく動け」と怒っている。

 緒方貞子は、進むべき道を示している。

 緒方貞子は、希望である。


いいなと思ったら応援しよう!

sakazuki
よろしければサポートお願いいたします!更に質の高い内容をアップできるよう精進いたします!