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過ぎる一つの季節。

昨晩から急に寒くなった。昨日の午前中は暑くて暑くて部屋にあるSEIKOの置時計は31℃を超えていた。その後窓を開けたり扇風機を回したり、どうにかあがいてみたものの29.7℃と健闘もむなしい。

北海道は涼しいという性質上、クーラーの備わっていない家が多い。クーラー?エアコン?いまいち違いも分かっていない。しかし近年の温暖化を見るとそうもいっていられないように感じる。5月には連日30℃を超え、全国の気温ランキングの上位10位を北海道の地名が埋め尽くす。6月はいったん寒くなるものの、その後本州からは少し遅れた”蝦夷梅雨”の時期に入り、雨と湿気がいやな日々が続く。7・8月に40℃を超えることは流石になかったが、晴れの日には30℃をゆうに超える。ただし、天気に左右されやすいという弱点があり、雨・曇りだと平気で20度を割る。凶悪。体調を崩しやすくなるので本当にやめてほしい。

そんなわけで昨夜から降りしきる雨の影響があって、あんなに暑かった室温が現在は22℃。室内がこれほど下がるということは外はもっと寒い。やっぱり一緒に布団でぬくぬくしたかったなぁと思う。

綺麗な睫毛が密度濃く並ぶ。まるで女の子のような美人な顔を思い浮かべる。最近は目を閉じた顔ばかり見ていた気がする。本当はそのくっきりとした二重の目にとても弱いことを多分当人は知らない。

夏が来たね、と夏が来るずいぶん前から、待ち切れずにドライブをした。何度も何度も。たくさん。朝も昼も夜も、晴れの日も雨の日も。

なんだかんだ二人で様々なところに出かけた。森にあるガーデン。温室の植物園。海。岬。砂浜。星空。山。喫茶店。高台の上に櫓が建っている公園。東屋のある公園。海賊船に見立てた大きめの遊具がある公園。ブランコしかない公園。無骨なコンクリートの展望台がある森林公園。

それと同じくらいの時間を部屋で過ごした。教えてもらったゲーム実況が特徴のある笑い方のルーツと知り、みんなが見ている人気のyoutuberを初めて面白いと思った。

シャグをほぐす手つきが脳裏に焼き付いている。はじめは私のほうがうまかったのに、なんだかかっこいいからという可愛い理由で知らない間に裏巻きが得意になっていた。その指はとても器用に煙草を巻く。

Bluetoothで繋いだスピーカーで本当に多くの音楽を聴いた。ほとんどの時間はそうして過ごした。おかげで新しい曲をたくさん知った。一年前と今とで聴いている音楽の趣味がまるっと変わった。

映画もたくさん教えてもらった。残念ながら多くはまだ見ることができていないが、見たい映画がたくさん増えた。もともと映画、特にアクションを全く見なかった私が実に二十以上も見た。

小説はおすすめのものを貸しあった。とはいっても私が借りて読むばっかりであった。音楽と映画にのめりこんでいた彼は読書に割く時間があまりなく、貸してもなかなか返ってこなかった。いずれ読んでくれるのならばそれはそれで構わない。

夏季休暇を終え、もう少しで季節が終わってしまうことを悟っていた。タイムリミットは近い。もともと二人はひと夏の間だけだとわかっていた。

恋のような感情は一切芽生えなかった。好き、会いたい、寂しい、離れたくない、そういう役割はお互いに求めていない。ただたまに一緒に並んで音楽を聴くだけでよかった。そして煙草を巻いて、吸って、少し散歩して、それぞれの家に帰って眠る。

だから何も悲しくはない。夏がすぎるとどろんと消えてしまった。

涼しくなったのでもう秋、そしてすぐに冬が来るのかなと思ったが、冷え込んだその日から一週間、またじめじめといやな暑さの日が続き、なるほどこれがいわゆる残暑か、と夏の余韻を感じている。一人ぼっちの部屋で、一緒に聴いた音楽を流せずに、以前は何を聴いていたんだったかと考える。私という好みがわからなくなり、アイデンティティを考え始めて、笑う。

疲れた頭を許すように撫でてくれたとき、びっくりしたが本当にうれしかった。華奢な体に対して意外と武骨なあの手指はいつかまた別の頭を許すのだろう。

まあいいか。まだ残暑を感じていようじゃないか。結局二人で聴いていた音楽は、元々彼一人でだって聴いていたのだ。今だって二人だろうが一人だろうが聴いている。すっかりなじんだプレイリストを開きシャッフルし始める。いつだって影響されながら移ろう。

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