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~故郷の海に魅了され~#海での時間

大小さまざまな石に埋め尽くされ、ところどころに流木が散らばる浜辺。

その日は、私に残る記憶より少し波が高かった。

”ざっぱーん...ジャリジャリジャリ...ざっぱーん...”

そうやって波が浜に打たれるたびに、風に乗って私の鼻を刺激してくる潮の香り。

(潮風ってこんなにきつかったか?)

住んでいたころはあまり意識していなかったことを思いながら、波と戦っているかのように遊ぶ息子を眺めていた。

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今年の正月、初めて妻子を連れて故郷へ帰省した。

静岡県の駿河湾の頭のような場所に位置する街、沼津市である。

何度目だったか、すでによくわからなくなっている緊急事態宣言が出ていたので、自家用車での移動であった。

31日の夕方5時頃に出発した。車の中で年を越し、目的地のパーキングに到着したのは、なんだかんだで朝4時頃であった。

仮眠をして9時頃から動き出した。

私の記憶にあるほとんどの場所へ行った。といってもほとんどがドライブがてらに案内した程度だが。

通っていた小中高学校の前を通り、駅や商業施設、よく遊んだ公園や神社、景色の良い場所をどんどん案内し、通り過ぎていく。

私の悪いとこで、思いつくとこ全てを見てほしい!を実行してしまおうとする。観光案内人にはなれないな...。

沼津港で刺身や天ぷらを食べたりもした。

赤い大きなロープアスレチックがある”少年自然の家”の広場では、ロープにしがみつく息子を妻と笑いながら見てたり、一緒に登ってよけいに怖がらせたり...。

みんなで楽しんだ。

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2日目には、3人で実家にも顔を出した。

妻は、私の両親と会うのはこの日が初めてだった。

このご時世ということもあり、玄関先でほんの5分ほどだけのあいさつ程度。息子は一度だけ連れてきたが、妻は初めて。かなり緊張していたので、かえって良かったと思った。

(やっと妻を連れてこれた。)

実家をあとにし、そんなことを思いながら海に向かって車を走らせた。


千本松原を抜けたところ。防波堤の手前にある駐車場に車を停める。

「ついたぞー。降りるでー。」

妻子に声をかけて車を降り、防波堤の階段を登る。

「うわーっ!すっげぇ!」

登り切った先に見えた景色に、妻子が声を揃えて叫ぶ。


...いや、私も叫んでいたかもしれない。

故郷の海は、それほどまでに大きく、美しく、私たちを魅了したのだった。

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大小さまざまな石に埋め尽くされ、ところどころに流木が散らばる浜辺。

その日は、私に残る記憶より少し波が高かった。

”ざっぱーん...ジャリジャリジャリ...ざっぱーん...”

そうやって波が浜に打たれるたびに、風に乗って私の鼻を刺激してくる潮の香り。

(潮風ってこんなにきつかったか?)

住んでいたころはあまり意識していなかったことを思いながら、波と戦っているかのように遊ぶ息子を眺めていた。


”自然”と呼ぶに相応しいものと遊ぶ息子を、初めて見たと思う。


”べつに暮らす場所なんて、3人で居れたらどこでもいい。”


そう思っていた。この瞬間までは。


いや、そう思うようにしていただけなのかもしれない。本当はもっと前から、妻子を連れて故郷に帰りたかったのではないだろうか。


もうこんなことを考え出したら止められない。


故郷の海と遊ぶ息子、それを眺めて笑う妻。

そんな光景に魅了されながら、私はつぶやく。




次来るときは引っ越しだな。


~故郷の海に魅了され。~ 

企画投稿 #海での時間


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