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『レ・シェルバン』トップお披露目というよりも…。

願いが叶って、偶然ではあるが『レ・シェルバン』(1997年 雪組大劇場公演)を拝見できた。轟悠さんのトップお披露目公演であるから、ファンとしては絶対に観てみたかった作品である。

事前に教えて頂いていたことだが、お披露目感がほとんど感じられないショーである。轟さんのお披露目というよりは、むしろ、花總まりさんと和央ようかさん(タカハナ)の”雪組さよならショー”と言った方が精確かもしれない。この時には宙組発足に伴うお二人の異動が決まっていたのだから、お二人は何も悪くない。きっと、轟さんもご自分のお披露目より、宙組へ異動する皆さんを送り出すことを先にお考えになったのだろう(轟さんは自分で「ああしたい、こうしたい」と仰る方ではないが)。

ラテンのクンバンチェロの場面で、やっと轟さんと花總さんが一緒に踊られる。お二人とも羽根を背負っていらっしゃることもあり、ここだけ唯一トップコンビ感が出ている気がする。あとは交互にお出になるし、花總さんの相手役は常に和央さんだった。リフトも大階段もすべてである。

轟さんはお披露目で、既に出来上がっていらっしゃる感じがした。タンゴ・革命(第5章だったと思う)の場面では、のちのラヴィックを思わせるハット帽とスーツ姿。「さすが…」と感動していたら、銃声が響く。「お披露目なのに死ぬのか…」と思わず、画面越しに声が出た。お芝居もタイトル通りゴーストだったのだから、一場面とはいえ、ショーでも死なせなくても良かっただろうに。

瞳子さんの女役と、まゆみさん(五峰亜季さん)のダンスで観た甲斐があるショーだと思う。クンバンチェロを歌いこなす瞳子さんは、やっぱり瞳子さんだった。当時、入団7年目で、まだ一応新人公演(最終年)時代にもかかわらず、やはり高い歌唱力は既に健在だった。

雪組時代のまゆみさん(特に一路真輝さんがトップだった頃から)は、とにかくダンスで引っ張りだこだったような印象がある。宙返りのようなアクロバットな動きも、パンツスーツで男役さん勝りのキレのあるダンスも、妖艶な大人の女性(妖しい雰囲気)のダンスも。とにもかくにも、ダンスの場面には必ずいらっしゃった。もともとはっきりとしたお貌立ちなのだろうと思うが、舞台化粧も相まって、どこにいらっしゃってもすぐに分かる。

当時の劇団事情は知らないが、おそらく轟さんと花總さんのコンビは一作のみと決まっていたのだろう。もしかしたらグンちゃんの組替え(トップ娘役スライド就任)も発表済みだったのかもしれない。ゆえにイシハナ(轟さんと花總さん)?の印象をつけたくなかったのかもしれない。しかし、それにしても。である。大階段から銀橋まで轟さんお一人だとは…。専科へ移られてからの轟さんは、孤高の人だった。そう思うからなのかもしれないが、何も、お披露目公演で”孤高の人なのかもしれない”と(ファンが)感じるような演出にしなくても良かったのではと思う。

その点、次作のグンちゃんとのお披露目に当たる『LET'S JAZZ』はデュエットダンスもあり(トランペット吹きのルイは死ぬが)、ちゃんとトップコンビであることを感じられるショーとなっていた。


『レ・シェルバン』は、その実、花總まりさんと和央ようかさんのプレお披露目だったのかもしれない。自分のことより、組や宝塚歌劇全体のことを優先される、轟さんらしいお披露目二本立てだったようにも思う。

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