宇宙の形を証明する――数学という人生
たまたま、NHK-BSPで再放送していた「ポアンカレ予想」の特集番組を観た(本放送は、2007年のことだったらしい)。「ポアンカレ予想」とは1904年にフランスの数学者 アンリ・ポアンカレ氏によって提出されたもののようで、宇宙の形が球体である(丸い)ことを証明するという問題のようだ(稚拙な理解であるため、詳細は他のものを参照してほしい)。
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当方(私)の数学レベルはあまりにも酷く、小学生から高校2年までの11年間、ほとんどアレルギー性の拒絶反応を起こしていたようなものだった。学年が上がるにつれ、テストの回答用紙はほぼ白紙、授業もテストの問題文も何を問われているのか分からないことが大半だった。
結局、一度も数学と仲良くなることがないまま学業を終えた身にとっては、数学の研究を志す人そのものが宇宙人に思える。それだけでひれ伏したくなる。ましてや、その研究に身を捧げるなど、到底敵わないと感じる。そもそも「ポアンカレ予想」の大前提となる三次元(空間)が理解できないのだから、数学者にしてみれば、そんな私の方が謎の生物だろう。
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おかげで番組の中心である数学の話は、何一つ理解しなかった。いや、最初から何かを理解しようとも、学ぼうとも思っていなかった。自分にはまったく関係のない世界に命懸けで臨む人がいるということが、とても興味深かったのである。
番組によると、「ポアンカレ予想」の証明が真であると認められたグリゴリー・ペレルマン氏(Grigori Yakovlevich Perelman)は、幼少期から数学の英才教育を受けたらしい。その段階で、私には氏が珍人に見える。数学オリンピックの金メダル獲得も、実は氏が数学と同じぐらい物理学にも関心を持ち、またそれに長けていたという話も、住む世界が違いすぎて逆にとても感動した。唯一親近感を覚えたのは、氏が1966年生まれということに対してである。
サンクトペテルブルク生まれの氏は「ポアンカレ予想」の研究のため、ニューヨークに渡ったようだ。その研究に取り組むまでは社交的で快活だった氏が、人付き合いを嫌い一人で研究に没入するようになったと言われている。(番組では、学生時代の恩師に会うことも拒んだと語られていた)
得てして、研究は孤独だと言われる面があるのは事実だろう。また、ペレルマン氏以前に「ポアンカレ予想」に取り組んできた研究者たちも、数学の魔力に憑りつかれた(魅せられた)とインタビューで答えている。誰も解いたことがない問題を解く(あるいは新しいことを論ずる)のだから、孤独になるのは当然である。
だが、「ポアンカレ予想」は人ひとりの性格を完全に変えてしまうほどの研究だったのである。それは、果たして健全(健康的)な研究と言えるのだろうか。
数学の表舞台から身を隠したペレルマン氏は、現在もどこかで研究を続けていらっしゃるとのことである。それを聞いて、私は何よりホッとした。
宇宙が球体であることの証明に心血を注ぐ。その意味を見つけられるのは、それに取り組んだ者だけなのだろう。
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