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勇者部外伝第三章 「烏丸久美子は巫女でない」 第1話 雑感

 久々に読物の感想を投稿する。前回の外伝第二章「芙蓉友奈は勇者でない」の感想については、ものの見事に1回目で頓挫してしまった。自身の悪癖を露呈してしまい、折角見ていただいた皆様には申し訳ないと言うほかない。今回は全6回を頑張って投稿していこうと思うので、見守っていただけると幸いである。

 余談であるが、前回の感想は随分の文字数が多くなってしまった。おそらく内容を1から追いながら見ていったからだと考えられるので、今回は人物等、個別にカテゴライズしてまとめていこうと思う。作品に触れたことがない方は、カクヨムにて冒頭部分を試し読みできるので、まずは目を通していただきたい。

烏丸久美子

 本作における主人公であり、今回の物語は彼女の視点で描かれる。大阪の大学院で文化人類学を研究しており、今回はその調査の一環で奈良県御所市にある遺跡の調査に向かっていた。武術を嗜んでおり、中型免許を所持しているなど、特異な経歴を持っている。

「大学に入ってしばらくした頃、平穏な生活に飽きて、『他人とは違う、変わった行動』をとにかく何でもやってみた。犯罪以外なら、思いつく限りのあらゆることをやった。」

 大学生が考える「他人とは違う、変わったこと」といえば、何があるだろうか。例えば、世界を一周するとか、事業を立ち上げてみるとか、個人的にはその辺を想像した。しかし、彼女の場合は「法律に抵触しないあらゆること」ということなので、「変わったこと」の感覚が我々とは少しずれているのかもしれない。

 しかし、一般人とは異なる思考や経験という設定が、作中では活きていると感じた。星屑の襲来に対して、動じることなく対処している様子に一定の納得感を与えているからだ。

 星屑はそれまで人間が遭遇したことのない「化け物」であり、普通の人であればパニックになる。おそらく戦争を経験した兵士などがイメージしやすいと思うが、彼らの中には精神に異常を患う人が大勢現れた。本作では、星屑の襲来の遭遇した人々が「天空恐怖症候群」という精神病となり、勇者の一人であった郡千景の母も患うなど、状況の深刻さを窺わせる描写がこのシリーズでは多数存在した。

 詰まるところ、一般人なら当然パニックになるような状況で冷静に振舞うことができるのは、それに類似したような状況を経験しているか、或いは頭のネジが外れたような人間だろう。そして烏丸は、両方の経験を持っている(とはいえ、人の下半身が飛んでくるような状況など人生で経験する人の方が少ないだろうから、おそらく後者の要素が強いだろう)。

 序盤から「レールの敷かれた上を生きること」や「人と同じこと」を嫌っていたという思いや、アウトロー的な経験をしたという描写などを挟むことで、戦闘シーンにおいての立ち回りに説得力があったと思う。

「私はこの状況が楽しいんだ」

 そして最後にこのセリフを持ってきたことで、「このキャラクターは普通ではない」という認識が確固たるものとなった。先述の通り、未知の存在が明確な敵意を持って襲ってくる状況で冷静になれる人などそういないし、「笑みを浮かべる」人など、常人ではないことは容易に推察できる。

横手茉莉

 高嶋友奈の「真の巫女」は別に存在したのだ。それが横手茉莉であった。作中では内気なキャラクターとして描かれていたが、巫女の能力を持つが故に星屑の存在を察知していた。また、道中でマイクロバスの存在を頭に入れていたり、烏丸久美子の表情を観察していたり、頭はキレるようだ。

 冒頭における烏丸の回想によると、絵本作家が夢なのだという。その後、烏丸の元に年1回絵本を1冊送ってきているということで、本作以降の「乃木若葉」本編世界でも生存しているようだ。最初の1冊が「幸福の王子」ということで、烏丸自身はこれを「皮肉、あるいは忠告」と捉えていた。これが意味するところは今回は分からなかったが、以降の物語の中で明らかとなっていくだろう。

高嶋友奈

 奈良勇者。関西が出自ということで、当初より若干の親近感を持っていた。本作では小学生ながら天性の戦闘能力の高さを見せつけていた。

「しかし少女の拳の振るい方は、私の一言で劇的に変わった。(中略) この子は間違いなく格闘の天才だ。

 小学生ながらにして、烏丸のアドバイスを的確に取り入れ、戦いのスタイルを劇的に変化させる。これはまさしく天才だろう。

「よく間違われていますけど、努力しないで強くなるから天才という訳じゃないんです。他の人にできないことをするから天才なんですよ。」                     ー巫紅虎(『パワポケ14より』)

 余談だが、この話を聞いて、僕が贔屓とするプロ野球チーム、阪神タイガースのルーキー佐藤のことを思い起こした。彼は、1年目ながら現在素晴らしい活躍を見せている。識者の多くは彼の凄みの一つに、「対応力の早さ」があると考えた。弱点を突いてくる相手に対して、すぐに適応し、結果を残しているのだという。本編の高嶋もそうであるが、助言を適切に導入したり、自ら弱点を克服したりすることは、簡単なことではないと思う。それを若くしてすぐにやってのけるというのは、非凡な才能の描写として十分だと思う。

 本編に話を戻すが、彼女の特徴は戦闘面だけではない。「決して自分たちだけ助かろう」という考えを持たず、「他の人たちも一緒でなければ逃げない」という行動も、本シリーズにおける彼女の性格を表したシーンであろう。

「でも、店の中にいる人たちを放っておけないです。みんなと一緒じゃないなら、私は行けません」

幼くして「全ての人を助けたい」という思いと「自分が守る」という勇気や自身を持ち合わせている姿は、勇者であるシリーズ全体のテーマである「友愛と根性」を象徴するシーンの一つだと思う。「結城友奈」ではこの姿勢の意味が問われることになる訳だが、本稿では割愛させていただく。

一般人

 物語の中心となった3人が特別であっただけで、本作での一般の人々の行動は現実的であったと思う。既に述べた通り、未知の敵といきなり対峙するとなれば、「恐怖」が感情を支配することは必然であると思う。敵の侵攻を防ごうとバリケードを作ったり、泣きわめく子供を黙らせようとする姿は、「乃木若葉」での大阪の人々と重なるものがある。

 子供を力づくで黙らせるという行動は、平時の倫理観で言えば、確かに褒められたものではないかもしれない。しかし、差し迫った危機が目の前にあるとき、生物の頭には防衛本能が働くだろう。子供の泣き声によって自身の存在が敵に察知されれば、命の危機はいよいよ目前となる。従って、このような一般人の行動は暴戻とはいえど、ある程度理には適っていると考えた。

上述のような理由から、烏丸の「子供に手をあげるのはよくない」という主張を正面から鵜呑みにできなかった。しかし、その後自分が囮となって脱出するための案を提示したので、良かったと思う。「自分ならこうする」という意見がなければ、切羽詰まった状況で簡単に物申すことはできないので、この辺りでも一般人と烏丸の思想や経験の対比が出ていた。

全体の雑感

 導入としては良かったと思う。高嶋友奈の巫女という謎に対する解答を冒頭で提示しておいて、回想という形でその経緯を紹介する。物語自体は「乃木若葉」シリーズの外伝という位置づけなので、事前知識があれば物語の把握も楽であったし、すんなりと話に入っていけた。

 「勇者部外伝」シリーズは、本作を含め「前提知識がなくても楽しめる」ように作っているということであった。本作単体としても、人々の生を巡る駆け引きの緊迫感や迫力のある戦闘描写、突如現れた謎の力を持つ少女など、読み手が引き込まれる要素は多数あったと思う。

また、「命の危機が目前の状況で人を信じることができるか」という問題は、人間の本性が強く出る部分だと思うし、「勇者であるシリーズ」を知っている人は、こういうシーンを見て、改めて「友愛」の象徴である勇者たちに思いを馳せるのかもしれないと考えた次第である。

 何故横手茉莉は大社にいないのか、烏丸久美子が大社に入ったキッカケは何なのか、といった部分は気になる所ではあるが、この辺りは物語が進む中で提示されていくと思う。少なくとも第1話に限れば、それぞれのキャラクターの性格も目立つように描写されていたし、面白かった。2話以降に期待したい。

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