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人は、自然の力を備えている
ミルトン・エリクソンの催眠療法入門 第Ⅰ章 解決志向誘導の原則
2.喚起と自然アプローチ
喚起:evocation
エリクソン派の催眠療法では、ことさらに治療家から何かアドバイスを与えたり、儀式のようなことはしないといいます。
なぜなら、何らかの体験を内側から呼び起こすことを重視し、それを喚起と呼びました。そして、催眠とは、不随意的に喚起された体験のことを指します。
自然アプローチ:naturalistic approach
エリクソンは、「人は自然の力を備えている」と信じていたといいます。そして、その力を活用できると。
それは、もちろん、トランスに入る力も同様。トランスとは、健忘、感覚麻痺、時間歪曲等を含む状態ですが、それらを、私たちは、ごじ当たり前の日常生活の中で行っているといいます。
それは、真剣になって何かに没頭している時に、時間が飛ぶように過ぎていったり、夢中になり過ぎて実は怪我をしていることに気づいていなかったり、と少し考えれば色々出てきます。
自然にトランス誘導
エリクソン派では、自然な会話によるアプローチでトランス誘導が行われます。会話を通して、相手の内側から何らかの体験を喚起し、その体験を広げ、方向性を与えていく。その方向性の中で、治療者は影響を与えていくといいます。
本書には、エリクソンの催眠誘導の例として、なかなか椅子に座りたがらない青年の事例が掲載されていました。青年は、椅子に座ることを自分から拒否して立ち続けます。立ち続けながら、ふと部屋の中を歩き始めた青年をじっと観察していたエリクソンは、「次はその椅子まで歩いて…」というように影響を与え始めます。
文章で読むとやや不自然に聞こえますが、おそらく、その空間においては、ごく自然にこの誘導が行われていたのでしょう。明かに影響を与えている。しかし、それは、自然で、その人本人の中から喚起された不随意の体験に寄り添っている。