きりたんぽ
母さん、母さんの作った、きりたんぽ鍋、
食べたいよ。
母さんの作ったのが、やっぱり一番美味しい。
ちょっと、醤油の味が濃くてしょっぱいけど
それが、また美味しかった。
正月に帰省すると、必ず作ってくれたよね。
毎年、毎年、それがずっと続くと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
でも、当たり前は当たり前じゃないんだね。
母さんが、あの世へ旅立ってから
時間は有限だということに、
今さらながら、気づかされた。
実家での何気ない食卓も幸福に満ちていた。
その時は、気づかなかった。
幸福の渦中にいる時は、
幸福に気づかないんだね。
幸福は、愛おしいものなんだね。
例え、自分できりたんぽ鍋を作ったとしても、
母さんの味は再現できない。
きりたんぽを見ると、母さんを思い出して
悲しみに沈んでしまう。
だから、もう、一生食べることはないでしょう。