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「Per aspera ad astra」少女病・セクサリスサーガの終着点にして物語音楽の金字塔、真典セクサリス特集

はじめに

 大分間が空きましたが、きちんと正面から向き合う覚悟が生まれたので、いよいよ真典セクサリスについて語って行こうと思う。独自解釈が多いかもしれないがご容赦頂きたい。
 もし、ここまでお付き合い頂いた方がいらっしゃれば、ありがとうございました。

限定ジャケットが後2バージョンある豪華仕様

1.existence -物語音楽史上最高の導入曲-

 https://youtu.be/e0anneisfAM?si=5LcKjfodrOedUYSe
 アルバム到着前にShortバージョンが先行公開された曲。先行公開視聴時には、誰もが「我々の少女病が帰ってきた!!」となったに違いない。

御高説ならいらない  これが最後の旋律

 サビ前上記の歌詞だけで、この曲の説明は終わっているとも言える。しかしshort版を聴いた患者はこう思ったのでは無いだろうか。「少し物足りない」と。大抵の患者はこれまでの作品を聴き回している訳で、耳が肥えている。はっきり言ってshort版部分だけを聴くといつもの少女病の導入曲以上でも以下でもない。
 その上でアルバムが届いた大抵の患者が「existenseは既に聴いたし耳を慣らそう」程度の認識で聴き始めるわけだが、short版部分を通り過ぎた途端、物語音楽史上最大規模の奇襲を受ける羽目になる。
 short版の時点でそこそこ綺麗に終わっているのだが、その直後はアナスタシアの道筋を物語として辿る。しかしそれと並行してダブルミーニング的にメタ視点からセクサリスサーガの復活への道筋を描き、患者感涙の作詞でBメロへ巻き直すというとんでもない構造をしている。例えるなら、ウマ娘の「GIRLS' LEGEND U」の冒頭を曲の途中かつ大半の聴衆が全く予期しない状況で入れて来るという凶行だ。
 一曲目から患者は死屍累々であり、これまでのセクサリスサーガの重みを全て用いた最高の導入曲だ。

2.不可逆性クロックワイズ -唯一の箸休め曲-

 この曲から魔女のキャラソンゾーン・ボスラッシュに入るのだが、シングルの中間曲が良く行う状況整理曲となっている(やっぱり劇中随一の一般人っすわシスフェリアは) 。
 ちょうどいい蒼白シスフェリア要素に加え、なぜかやや民族音楽寄りのサウンドが入っている。穏健な音楽の展開に対比した人と魔女の間での葛藤の描写がGOOD。
 「時の巻き戻し」という要素が滑り込んでいるが、願望に対する結論のみ提示されており、いまいち過去作との繋がりが煮え切らない。
 少女病公式サイトの2016冬コミ情報の欄を見ると、始まりと終わりの魔女の話をするといった文言があり、曲解かもしれないが発行順的には第一の魔女であるシスフェリアの掘り下げを本来別作品で行う予定だったのかもしれない。
 初見は納得感があるし、補完も不要とは思われるが、謎も多く残している作品。

3.有形悲劇を与えたまえ -This is the symphonic rock-

アイリーンとはなんなのか?→こいつだ!!
少女病とはなんなのか?→これだ!!
物語音楽とはなんなのか?→これだ!!
シンフォニックロックとはなんなのか?→これだ!!
 良い意味でこれら以上でも以下でもない曲。信仰と狂気、混沌と惨劇、語りと音楽の調和。全てが存在している。アイリーン視点の残響レギオン、アイリーンのキャラソン以上の役割を全く持たないが、ものすごい物語音楽濃度を持つ名曲。
 ほかのキャラソンゾーン曲に比べても主観的な部分が極めて強く、濃度100パーセントのアイリーンだ(というかただの快楽主義者かと思ったら「神」に敵愾心はあるんすね……世界を終わらせたくない一心なのか、過去に何かあったのか…)
 ラストのCメロは聴衆の期待を裏切らない貫禄ある展開となっている。飾り立てられた言葉の果てのフレーズが

我が望みは生まれ落ちて 長きに渡り唯一つ
刹那の夜を繰り返せ 全てが仮初ならばこそ

であり、素晴らしい一貫性とパワーを感じる。
キャラソンだが、初心者向けの様相。残響レギオン0曲目といったところか。

4.sacred answer -真白の国国歌-

 メリクルベルのキャラソン……に見せかけた真白の国国歌。
 黒雪姫→偽りなき聲にフレーズが継承されたように、イントロとラストCメロ前において『最終楽章:魔女と七人の美しい魔女』からの引用がなされている。攻撃的な雰囲気と、「真白の国の美しきモノ達」の諦観と堕落、哀愁に満ちた雰囲気の両立は、物語音楽の極北『廃園イデア』譲りだ。
 5分以内の曲で起承転結をしっかりまとめ、後半の盛り上げ方も「らしさ」に溢れている。

『世界よ、止まるがいい。美しきモノとともに』

という歌詞に見合った、良い意味で「らしさ」に甘えた曲である。
 余談だが、ラストライブにおいて歌わなかったキャラソンゾーンにおいて、筆者が唯一聴けなくてガッカリした曲でもある。メリクルベル メリクルベルしたい……したくない……?

5.因果律を灼け少女-片割れとの訣別と世界の否定-

 少女病の曲では珍しい強めの命令形が入っている題名という時点で嫌な予感がしていたが、あらゆる意味で期待通りの曲。
 引き続き魔女のキャラソンゾーンであり、リフリディアのターンだが、曲の全体像を掴むのにシングルCD版天巡メルクマールだけでなく、小説版天巡メルクマールの読破も要求されるという少々敷居の高い曲でもある。
 緩やかな歌い出しから、現実に引き戻すかのようなギターリフ……そして決定的な破綻を示す「リディア」の語り。天巡メルクマールでも多用されていた、繰り返しを多用した作詞。諦観へと繋がる重めのリズムキープ。そして何より『黒紫のオーンブレ』で塗りつぶされていた歌い出しを用いた神への怨嗟。完全無欠・純粋無垢な「リディア」曲だ。
https://booth.pm/ja/items/3453566
一時期入手が困難だったが、今は電子版がある。是非とも小説版を読んでから聴いてほしい。

6.筋書き通りの運命劇詩-ルクス見参-

 まさかのルクス曲。ここでルクス曲が入るのは結構サプライズではなかろうか?いや、もちろん出てくるのは想定内であったが、一曲丸々というのは筆者的には想定外、嬉しいサプライズ。バックの演奏はいつも通りのアニメOP感を発揮しており安心感すらある。
『慟哭ルクセイン』のレビュー時にも述べたがCV.沢城みゆき、Vo.Mitsukiという声質がまるで違う組み合わせで、破綻をきたさず機能しているのが凄すぎる。ルクス曲は常に両者の底知れぬパワーで成り立っている。
 通常の物語ならこのままハッピーエンドに向かうだろう……しかしこの作品は物語音楽であり、セクサリスサーガだ。

7.ラストピース-覚醒する最後の魔女、終わりの始まり-

 少女病楽曲における起承転結の「転」曲にあたる。
 極めて重々しいイントロ、そしてフランとルクスの邂逅……決定的な関係性の破綻、歌い出し前二段目のイントロ。そしてフランの、いやアナスタシアの独白めいた歌い出し。セリフ・掛け合い・語り・語り寄りの歌唱・韻・バック演奏、全てがそこに存り、高いレベルで調和している。
 Aメロまでのこのムーブは、これまで一貫した物語を音楽という土俵で形作ってきた少女病の集大成と言っても過言ではないだろう。

あなたは私の奥に 誰の影を見ていたの?
あなたが背負う原罪 あなたの為だけの贖罪
私の絶望(やみ)に重ねないで

 ごもっとも、ごもっともなんですがとてもショッキングな歌い出し、患者にとっては会心の一撃ではなかろうか?(三行で与えるダメージではないだろこれ)

自己欺瞞に満ちていても それに気づいていなくても
そんな英雄(ヒーロー)気取りこそ 人間(ひと)らしくて愛おしかった

 フランとしての最後の言葉でしょうねこれ……こんなエモーショナルすぎる作詞を突っ込んだ上で、音楽としてきちんと成立させる構成力。流石の一言。
 天巡メルクマールで鍛えられた魔女への昇華部分パートに関しても見事、少女病が辿ってきた積み重ねが惜しげなく投下され、これまでの音楽的伏線が全て機能している。 
 流れとしては必然である『星謡の詩人』引用パートにおいては、カットインみたいな演出でありながらも、原点への回帰と神聖な雰囲気を出しつつ、リズム隊主導で主題に戻す力業に出ており、効果的に機能している。
 総じて少女病の「転」曲の中でもトップクラスの楽曲であり、歴史の重みを感じる一作。

8.魔女と神の輪廻-遂に始まる神堕ろしの儀-

 遂に集う五魔女、神の選定、物語音楽史上最大規模の戦闘曲にあたる。恐らくアナスタシアの物と思われる足音とピアノのイントロを重ね合わせる表現は、物語と音楽の両立を模索してきた少女病の粋を集めた小技である。    
 そこから4分弱で四魔女の「主張」を展開する。4分だ。列を崩すことなく、各々の要素を決して損なうことなく、4分で展開し尽くしている。この4分弱に四魔女が確かに存在している。これほどまでに端的かつ濃密な4分間がいまだかつて存在し得ただろうか?
 特に、初手リディアパートのコーラスカットインは秀逸。豪奢な修飾に地に足つけた骨太な作編曲、これこそセクサリスサーガである。
 そしてアナスタシアとセクサリスの邂逅、灰金の魔女の導き、祈りと願いであるCパートでは、ギターリフに混沌を乗せつつ、ギター部分を除くすべてで調和を図っている。いわば『忘れ去られた神聖四文字』で提示した「重層化した虚像(Fantasy)」を体現している。
 セクサリスサーガ全体におけるクリフハンガーにあたる曲でありながら、特に搦め手を用いず、正面から音楽濃度とパワー、そして無茶苦茶な音楽構成を下支えする作編曲者の絶妙なバランス感覚で成り立った、魔女の物語の最期を飾る秀作。

9.to you-星の終わり、「Per aspera ad astra fabula」 -

 予定調和的な選定、第五の魔女は選ばれ、神へと至る。
 独白に並行したピアノと装飾音のさざ波めいた惰性的イントロを、バンドサウンドが突き破り、コーラス及びセクサリスの語りが押し流していく。ツインボーカル曲の中では最も連携を感じる曲であり、ボーカルのIN・OUTがばっちり決まっている。
「物語は困難を通って天へ(Per aspera ad astra fabula)」というキラーワードを背後に置きながら、その困難さにより鍛え抜かれたセクサリスサーガの総力が結集している。魔女の物語から一つステージの上がった場所で物語が展開しているものの、語呂・韻、一貫した物語、音楽的攻撃性といった少女病の本質は変わらない。
 「パンタシア」「物語は困難を通って天へ(Per aspera ad astra fabula)」ここにきてラテン語を用いた作詞を構え始めたが、ファンタジー音楽において、原初へ戻るとなった時に言語的に戻るべき先はがラテン語かギリシャ語であるというのは自明の理であろう。
 『星謡の詩人』を『ラストピース』で回収しているのがよく機能している。偽典セクサリス自体、ラテン語やローマ字読みの崩しを多用しており、世界の始まりをセクサリスサーガで展開するとすればこの技法しかない、そういう意気込みを感じさせる。
 淡々としたリズム隊に先導されながらこれまでの「災厄」を清算し、セクサリスサーガそのものを閉じていく訳だが、ここで様々な技巧をあえて凝らさず、ただ着実に終わりに向かわせることで、聴衆に「嗚呼、終わっていく……」という情感を持たせることに成功している。
 その上で、                                                                                             

ひとつ ひとつ 剥がれ落ちて 消え逝くパンタシア
此処まで見てくれていた あなたと共に往きましょう
星の幕引きはもうすぐ終わるから
何もかもが夢幻と化したら
ーーーやっと笑えるーーー

これである、泣くしかないよ、マジで……ようやく笑えたんだよな……そうだよな……

「さよなら……またいつか。
いえ、きっともう出会うことはないでしょうけれど。
これが本当の、終焉の歌」

 まさかの造語で解読不可能な「終焉の歌」も含めて、極めてセクサリスサーガらしい終わりのセリフである。あらゆる方向に含みを持たせながら、聴衆との別れを強調している。造語部分に関しては意味・内容云々というよりは、そのまま呪文とでも思わせて、聴衆の届かない所に物語そのものが昇って行き、結果として神聖視されるようなイメージすらある。
 題名の『to you』、作内で二人称が使われる際に、これほどまでに対象がバラバラなのはyouという言葉を使う曲としては相当珍しい。
 しかし、セクサリスサーガとしての総体は、明確に我々聴衆のことを認識している節があるし、最後のセリフは、やはり『existence』からの流れ的に考えると、ダブルミーニング要素が絡んでいる部分もあるが、概ね聴衆に向けられているように感じる。素晴らしい別れの歌だ。
 総じてセクサリスサーガを「終わらせ」「別れる」ことに重きを置いた本作、重めのリズム隊で終わりへの道筋を建てながら、聴衆とセクサリスサーガとの別離を表現した実質的な最終作である。ただただ重くなるということもなく、明るすぎることもなく、「次の世界」を垣間見せながらも、別れを印象付ける。
 物語音楽における「含み」「解釈の自由」といった王道をきちんと押さえた終幕。見事というほかない。

10.ボーナストラック(サブスク配信時タイトル:blank)-少女病の勝利宣言-

全編セリフのボーナストラック。落ち着いたピアノ伴奏が良い読後感を演出している。

美しかった 儚かった 脆かった でも

うんうん

強かった

 や っ ぱ こ れ だ ね
    勝 利 宣 言
    玉 音 放 送
     ド 正 論
   セ ク サ リ ス
物 語 音 楽 の 金 字 塔
    犯 行 声 明
     八 王 子

 今アルバム最大の笑いどころ。あまりにも勝利宣言すぎるし、ここまでおびただしい数の戦死者を出している我々にとっての玉音放送でもある。     
 全ての物語の死から生まれた存在からの語り掛けであり、セクサリスサーガ全体が「死」と対峙することで成立しているのがよくわかる詩となっている。
 そして「死」の先には何があるのか……

11.genesis-物語は連なる、物語音楽は在り続ける-

 星の死に連なる物語、新たな世界で心機一転と言った様相。platnic colorsを彷彿とさせる曲調でありながらも、セクサリスサーガを締める曲としての重みを兼ね備える。

めくるめく 物語が また生まれては消えていくんだろう

とめどない物語を 飽きることなく糧にするんだろう

 セクサリスサーガが終わろうとも、物語音楽というジャンルが続いていく、そういった意図に捉えられそうな作詞をしつつ、

いつかまた観測される日へ――

遠くずっと遠く 滅びた場所で
無数に光る 物語の欠片を探しだしたよ
幾つの死 幾つの夢 超えてきただろう
手にしてきた真実
忘れないでね 忘れないから

 ずるでしょ、これは……「我々の後にも物語は連なっていく」という強い遺志を遺しながら、確かにセクサリスサーガがここに存在したという主張を繰り広げている。それは、聴衆にとってみれば、未来への希望であり、一生遺るであろう呪いですらある。

『ありがとう、わすれないよ』

  このラストワードからわかる通り我々は「忘れられる」ことはないのである。あまりにも呪いだ、我々は観測者でありながら観測され、このセクサリスサーガを一種の基準としてこれから連なる物語に出会っていくのだ。
 セクサリスサーガは終わったが、在り続ける。少女病という病は蔓延していく。そういうメッセージを一切の後味の悪さなしに伝えきっている。これは、少女病主宰・作曲編曲のRD-Sounds・ボーカルのMitsukiのパワーバランスがしっかり取れていることと、聴衆に対しての信頼に起因している。
 Mitsukiの歌唱の憑き物が落ちたかのような雰囲気が素晴らしい。セクサリスサーガという極めて厄介な作品群のメインボーカルという重責から解放されていく。そのエネルギーが溌剌と発揮されている。
 総じて、セクサリスサーガの終わり方として、これ以上ないだろうという素晴らしい終わり方……いや在り方だった。物語音楽の締め方としては手本にはならないかもしれない、しかし確実に金字塔だ。

最後に

 もしここまで読んでくださった方がいらっしゃれば、重ねてお礼を申し上げたい。ありがとうございました。

https://note.com/19591969/n/nd0aa8f5eaaa9

 上記でリリース直後の思いの丈は話しているし、長くなったので現在の話を短めにしてまとめとさせていただきたい。
 もう真典セクサリスが出て3年も経とうとしているわけだが、未だに聴く音楽のレパートリーに残り続けている。やはり呪いであったが、RD-Soundsや中恵光城との出会いは少女病なしには考えられなかったし、同人音楽・Sound Horizonを代表とした物語音楽の沼にまだ居続けているのは、やはり少女病抜きでは考えられなかっただろう。
 同人盤のサブスク配信もついにアナウンスされ、物語音楽の金字塔は大衆の手の届くところに連なり、在り続ける。本記事が少女病にたどり着いた者への道標とならんことを。
 最後に。今尚、連なり続ける物語音楽達に感謝を。


Per aspera ad astra fabula 
セクサリスサーガに寄せて FFLJPN


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