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「いくよ、フィナーレへ」セクサリス・サーガ完結記念、少女病特集vol. 7(狂聲メリディエ〜天巡メルクマール編)


はじめに

この記事をもって、真典前の振り返りであるこの特集は最後になる(真典は個別で何らかの記事を出します)。ここまでお付き合い頂いてありがとうございました。

・狂聲メリディエ

オススメ度☆×7

 メジャー2枚目のアルバム。1曲目が魔女の集合曲かつインパクトが強いので勘違いしがちだが、魔女メリクルベルについての物語になる。
 メリクルベル自身かなり複数の作品に跨って伏線をばらまいており、その回収回であるため、要求される前提知識がかなり多い。黎明ローレライと告解エピグラム、創傷クロスラインあたりは聴いてからでないと物語の理解に難がある。よって過去作キャラの掘り下げが多くおこなわれており、サンホラにおけるnein的な立ち位置にあたる。音楽的には素晴らしい曲が多いだけに、万全の状態で聴いてほしいアルバムとなっている。
 一曲目「不完全犯罪依存症」は前述の通り、魔女の集合曲にして、物語音楽史上数少ない「会議曲」となっている。重めのテンポキープで魔女達が形作る秩序の重みを表現しつつ、刺すような語感で聴衆をコントロールしている。真典との直接的な繋がりがあり、少女病後期の代表曲と言って差し支えないだろう。
 二曲目「真白国へようこそ」は題材としてはメリクルベル版「真実の解放」「真紅のエヴェイユ」といったところ。明らかにえげつない事をメリクルベル側がしているはずなのだが、曲調が救いのある雰囲気で徹底しているので、聴衆すら洗脳してくるタイプのヤベー曲となっている。(ミリリは抵抗しているあたりやっぱ芯はある子なんすねえ……なお……) 
 三曲目から五曲目は抵抗の意思があるミリリ以外のメリクルベル被害者の会曲となっている。四曲目「primary period」は素晴らしいギターリフで、物語の内容関係なく少女病導入に最適の逸品。五曲目「空導ノ果テ」は空導ノスタルジア関係曲であり、相当な間が空いての伏線回収になる。
 六曲目「Still Unforgiven」は少女病第三の自○誘導ソングといった趣だ。告解直後のフィーナが如何にして創傷の廃園イデアの状況に陥ったかが描かれているわけだが、曲調的には告解の雰囲気で廃園イデアを展開しているイメージになる。

放棄せよ
ただ嫌悪せよ
生を選び地を這うその姿
絶望せよ
恭順せよ
明日を選び取ることの無いように
その一切から目を逸らしても

この曲のハイライトの部分を抜粋したが、メリクルベルの行いを煌びやかに表した名文としか言いようがない。言葉遊びの部分でも廃園イデア譲りの完成度だ。
 七曲目「Mirror Image」はフィーナと同様フィーチャーされているミリリ曲。前曲程のインパクトはないが、本アルバムで徹底されている嘆きのような「Ah…」コーラスが最もハマっている曲である。
 少女病初期の名盤、黎明ローレライの「黒雪姫」のメロディから始まる八曲目「偽りなき聲」は過去曲の堅実なフレーズから後半に畳み掛ける構成となっている。メリクルベルが魔女に至るまでの描写がされているわけだが、まさに『黒雪姫』だ。魔女に至るまでの過程と至ってからの惨状のどちらのカタルシスも味わえる。

村を焼いて
国を焼いた
全てその望みのままに
欺瞞を塗し
虚偽を被せた
全てその望みのままに

魔女に至った後の惨状をここまで端的に表現した歌詞は全ての作品通してもなかなか無く、お手本のような作詞。
 メリクルベルの声を聴けという歌詞の通り音圧的に入っていそうなバックコーラスが入っていないのも特徴の一つ。歌「も」聴かせるもしくは特定の楽器を聴かせるような作りの曲はあったが、この曲ほど歌「を」聴かせる作りでやっている曲はない。
 九曲目「狂聲ドミナシオン」ではミリリ一人でメリクルベルと対峙する構図になっている。対峙・対決という物語の王道が一曲丸々使って展開されている。歌によるミリリとメリクルベルの問答部分はミュージカルでもオペラでもない、物語音楽の真髄とも言える。
 十曲目「最終楽章:魔女と七人の美しい少女」は諦観と虚無と絶望感あふれるゆったりとしたエンドロールを展開している。(「Mirror Image」から3曲に渡って一人で魔女に抵抗していたあたりやはりミリリ自体は他作品なら主人公張れるんだろうなあ…)
 作品の題材上諦観に塗れた物語となっており、雰囲気だけは似たような曲が意図的に続くが、音楽側に諦めや妥協はなく、コンセプトアルバムとしても、曲単位で見ても聴き応えのある作品となっている。

・天巡メルクマール

オススメ度☆×10

 メジャー4枚目のシングル。単刀直入に言ってシングルの中では最高傑作にあたる。これまでの作品ではジャケット自体は至ってまともだったが、今作は見ての通りジャケットの時点で殺意が高い。
 1曲目「黒紫のオーンブレ」はコンポーザーであるRD-Soundsの代表曲と言っていいほどの名曲。葬式から始まるというとんでもない導入となっており、筆者の葬式で流して欲しい曲No. 1でもある。
 物語音楽において、導入曲でこの後の曲で出てくるセリフを集合させるのは、サンホラでも見られるようによくある手法であるが、この曲では時系列的にこれまでの展開を回顧しつつ、作品内に存在しないセリフまで取り入れている。さりげなく物語の厚みを増す為の良いギミックだ。
 歌い出しは歌詞カードにおいて塗りつぶされている。今作の主人公であるリディアの世界に対する怨嗟・敵意をありったけ込めた、極めて攻撃的で素晴らしい歌い出しだ。息をつく暇もない割りには緩急が効いており、全面的にスキのない構成だ。少女病の導入曲の完成形と言っていい。
 2曲目「双生プロヴィデンス」は今作の主役である双子の過去編を描いた曲であり、少女病のツインボーカル曲としてはとても完成度が高い。淡々と物語の描写を行なっているに過ぎない曲な上に特段長い曲では無いが、整理がついていてシングルの物語音楽の中継ぎ曲としてはお手本のようなことをしている。
 3曲目「天巡:終わりにしてその始まり」はシングルの締め曲としては最強の歌詞を備える。
歌い出しの

許されない命がある
そう世界が存在を拒むなら

という単純に強力な歌詞もそうだが、リディアが魔女になる過程で神への信仰を諦める流れを「天よ聞け」から始まるフレーズを繰り返すことで構築しているのが、聴衆に印象付けるのにはシンプルイズベストだ。
 そして「天に聞いてもらう(祈り)」→「天に対する宣戦布告」への変動を経て「自らが人を超える存在となり人に聞かせる」という意味での「人よ聞け」から始まる最終盤のフレーズは多大なインパクトをもたらした。
 全体としては、強力な歌詞をバックの音楽が全力で支えており、音楽で物語を読ませるという物語音楽の真髄を極め、シングルながらも少女病の集大成に相応しかった作品になる。
 そしてここからセクサリスサーガは6年もの休眠期間に入る。

終わりに 

 「真典セクサリス」に関しては別途取り上げることにするので、これにてセクサリスサーガ作品は網羅した。改めてセクサリスサーガを振り返ってみると、体系的な物語と音楽の狭間で両方のバランスに腐心し、試行錯誤を繰り返している様子が見てとれた。
 その試行錯誤の間に生まれた作品群はどれも個性があり、物語音楽を聴いてきた者にとっては何かしら刺さる部分があると思うので、稚拙な文ではありましたが、何か興味のありそうな作品があれば是非ともセクサリスサーガに触れて欲しいです。

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