実録ICT支援員「授業配信」
タブレットが教師と生徒全員に配布されれば、即座に授業で活用できる訳ではない。
タブレットはコンピュータ機能をコンパクトにしたものだから、できることが限られる。使用したいアプリが大きければタブレットには入らなかったり、動作が遅くなる。例えば英語のデジタル教科書。
「そんなことはない。」
「できるぞ!」
十分タブレットで使用できていると思った教員も多いに違いない。しかし、タブレットで使用するためにはWi-Fiが十分な速度を持っていなければならない。LTEの4Gで使うとスムーズに動かないことが実感できる。もし生徒全員が教師と同じ英語のように重たいデジタル教科書を同時に使うとWi-Fiが対応できない。データが大きくなれば渋滞を引き起こす。これを回避するためにコンピュータを内蔵した電子黒板をLANケーブルでサーバに接続して表示させたり、教師のタブレットにだけデジタル教科書を表示して電子黒板に投影(Air Play)させている。また、AIR PLAYを使うためにはタブレットから電子黒板に送られる信号を受信するためのAppleTVなどが必要になる。全ての機器操作を覚え、Wi-Fiなどが正常に機能して、いろんなアプリの使い方をマスターしなければタブレットを使った授業はできない。
GIGAスクールが始まって1年以上経過した今、タブレット・電子黒板・AppleTVなどのハードウェアを使ったことのない、あるいは、滅多に使ったことのない教員は結構な割合で存在する。彼等は当然、アプリの使い方を知らない。日常的に使っている教員でも使いこなせるアプリの種類は限られている。
最近のアプリは実行ファイルをインストールして、使用するデータはネット上に置かれる。ネット上のデータを使う以上はアカウントが必要になる。アカウントはIDと呼ばれる名前とパスワードを合わせたものである。どんなアプリかと言うと、Google関係では Gメール ・ドキュメント・スプレッドシート・スライド・classroom・Meetなどである。これら全てを使いこなす必要がある。Microsoft系にもGoogleと同様の機能を持つアプリ群があり、Apple系にも同様のアプリ群がある。自治体により3系列のどれかを導入している。これらと併用する形でロイロノートを導入している自治体も多い。
ロイロノートやGoogleアプリ群等のアカウント購入は自治体が行うけれども、アカウントの登録は各学校が行う。また、教師用や生徒用デジタル教科書などネット上のデータを利用するアプリを使おうとすれば同様にアカウント登録が必要になる。全職員と全生徒のアカウント登録は毎年更新しなければならない。また、転出入がある度にアカウントの追加登録や削除を行う必要が生まれる。さらに、例えば、購入したメールアカウントは数字がならんでいるだけなので、各教師と各生徒に割り振っても、送受信の度に、アカウント名簿を確認しなければならない。この問題の対処法はメールアカウントに教師名・生徒名をつけ、学年・組・部活名などを紐(ラベル)付けする。こうすればクラス別に一斉送信ができるし、誰からのメールかも一目で分かる。この登録は最新の生徒名簿を管理する学校にしかできない。全てのアプリについて、この登録作業はICT支援員の行うが、中には教員が行う自治体もある。
使いこなせているとは言えない状況下で新型コロナウィルス蔓延でオンライン授業実施の要求が生まれている。前述した問題を克服したからといって、オンライン授業が欠席生徒や不登校生徒の授業参加を可能にする訳ではない。
支援員である私自身が毎日の業務に追われ授業配信の方法を考えていなかった。ICT支援員を派遣する会社からもマニュアルの提供はない。係の先生からは、いよいよ授業配信を実施しろとの圧力がかかっているらしく授業配信の方法提示を求められた。
学校が購入しているZoomのパーソナル・ミーティング・IDは5つしかない。 5本あれば行事などで使用するチャンネル数は十分だが、授業配信のチャンネルはクラス数必要になる。毎時間違うミーティングURLだと授業の度、生徒にメールでミーティングURLを送る必要が生まれる。しかし、勤務先はGoogleアカウントを購入しているのでGoogleMeetが使える。こちらは幾つでもミーティングURLが作れる。
Gメールアカウントにクラスのラベルがついているからクラス別にメールを一斉送信できる。各教師がミーティングURLを一つ作る。そのURLを担当クラスの生徒全員にメール送信する。教師は授業開始と同時にミーティングURLをタップして授業を始めると教師のタブレット画面がミーティングURLを通して欠席した生徒が視聴できる。電子黒板にも生徒用Gアカウントを配布しておけば欠席生徒の見ていると同じ画面が電子黒板に表示される。教師はタブレットでプレゼンを行う要領で授業を実施する。音声もミーティングURLを通して欠席者に届く。
この方式を提案して説明会で全職員に提案したが、授業設定とメール送信と授業中のタブレット操作が煩雑だと不評だったので考え直した。学校限定のWEBサイトを作って全クラスの時間割を載せて、その一コマずつに教師が作成したミーティングURLのリンクを貼り付けることにした。ここまでの作業を私が一人で行うことにした。教師も欠席生徒もWEBサイトを開いてクラスの時間割から、その時間をタップすればMeetでミーティングに参加できる。電子黒板も同様に参加できる。この方式なら、職員室から複数学級の生徒相手に授業を行うこともできるし自宅からでも授業を実施できる。係の先生からもOKをもらった。
自分的には満足したけれども、若い先生が「classroomを使っても授業配信はできます。」
と言われて、彼の案を確かめてみた。WEB形式の時間割は授業担当者が個別にミーティングURLを作るのだが、彼の方法は生徒用Gアカウントでクラスを作る。しかし、生徒用アカウントではミーティングが主催出来ないので教師を参加させて教師にミーティングURLを作成してもらって、生徒からMeetのアイコンが見えるようにする。そして、そのクラスで授業を行う教師全員をクラスに参加させればクラス数分のミーティングURLを作るだけで授業配信ができる。
「classroomを使った方が合理的で、今後classroomを使うことが予想されるから、彼の方式の方が良いです。」
こう進言した。
今日は天皇誕生日で休みだが、午前中使ってclassroomでクラスを作り授業を行う先生全員に招待状を出した。突然、
「ご飯です。」
いつものように階下で妻が叫ぶ。横浜系餡かけラーメンをすすりながらビールを飲む。
酔いを覚まして午後は散歩かランニングのつもりだ。この2週間は楽しい仕事だった。真剣に頭をフル稼働させた。先生相手の講習会で緊張で声が震えた。その説明も若い人の考えには及ばず、彼の方式を応援して休日半日を費やした。よくぞ、自分が考えた案に固執することなく、冷静に判断できた。先生たちの仕事を軽減して楽しくできるようにお手伝いができた気がする。
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