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魔法の言葉について思うこと【創作大賞感想文 #なんのはなしですか】


 吉穂みらいさんが↓の記事を投稿なさいました。

この記事は、コニシ木の子さんの記事を踏まえたものなのですが…

みらいさんの記事の中で、私はこんな風に語っています。

「あれは私、最初からああなると思ってました。誰かが使ったら最後、凄いことになるって。だってものすごく便利な、魔法の言葉でしょう。強烈なパワーフレーズじゃないですか。完璧ですよ、あれは」

吉穂みらい『いただいたものは返したい、と彼は言った』中の私の発言

 あれというのは、#なんのはなしですかをつけた記事がnote界隈を席巻している状況のこと、「魔法の言葉」「強烈なパワーフレーズ」と定義されているのは「なんのはなしですか」というフレーズです。
 吉穂さんにこんなことを言ったのか定かではないのですが、コニシさんへのコメントでも「なんのはなしですか」を評して「万能のセリフ」「魔法の言葉」などと書いているので、それっぽいことは言ったのでしょう。
 ということで、「魔法の言葉」である「なんのはなしですか」について、少し思うことを書いてみます。 

    *

 ハードボイルドには裏路地がよく似合う。だから、私から見れば眩しいほどに陽のあたる場所にいたように見える彼が裏路地の住人だったと主張するのに異は唱えない。

 時折彼の記事を読んでいた頃、「この人は、ハードボイルドという言葉の意味を理解している」とうなずいたものだ。二十代の一時期、ハードボイルド小説ばかり読んでいたので真正のハードボイルドと、口先だけの偽物を見抜けるようにはなったと思う。彼は真正ほんものだった。

のちに、私は彼の文章をこう表現する。

硬質な文章と、没入のさなかに醒めて自分を見つめようとする眼差し、女性に弱そうなところまで(私の勝手な印象です)、ハードボイルド小説の主人公が綴っている文章だろうか? と思ってしまいます。

「noteで書く小説②」より

 ここまで賛美するなら、フォローして全部の記事を読めばよさそうなものだが、当時の私は「私ごときがフォローしては、失礼にあたるのでは?」と思う気持ちが強すぎて、誰に対しても、なかなかフォローに踏み切れずにいた。だから、彼をフォローするのも、まだしばらく後の話になる。

 それはそれとして、「没入のさなかに醒めて自分を見つめようとする眼差し」と私が表現したものを、フレーズ一つで表すとこうなる。

なんのはなしですか

 この場合、「なんのはなしですか」は、自分への問いかけの言葉となるだろう。

 その後、創作大賞2023をきっかけに彼を晴れてフォローするようになり、記事を読む回数も増えるにつれ、「なんのはなしですか」に別の意味合いもあることに気付いた。

 例えば、村上春樹の小説における「やれやれ」の同義語としての「なんのはなしですか」。この場合は、傷つきやすい自己を守るための鎧になる。

 または、熱く持論を語ってはみたものの、それを唯一の真理であると断言するのをためらう際に使う「なんのはなしですか」。この場合は、己が真理を知っているかのように振る舞うことを拒絶する、つまり、成熟を拒む言葉となるだろう。

 という具合に、時と場合により異なる意味を持つ「なんのはなしですか」というフレーズだが、数ヶ月前、この言葉がコニシ氏以外のnoterにも解禁された。
 私も早速いくつかの記事で利用させてもらったのだが、先にあげた「ハードボイルド」「≒やれやれ」「敢えて成熟を拒む」のどれにも当てはまらない使い方になっている。

 一つには、大阪弁で言うところの「なんでやねん」に近い使用方だ。私には、そう言いたくなる友人知人が多いので、エッセイに彼らを登場させてしまうし、彼らの影響なのか、小説にまで似たタイプの人物が登場する。「おばさん向きの落ち着いた鞄を教えて」と頼むと、エルメスバッグを勧める元同僚、自分をジェダイ騎士だと思い込むたぬきの子など。それに対して、作者である私や別の登場人物が突っ込む際に「なんのはなしですか」を使用するわけだ。

 もう一つは、「オチのない小説に#なんのはなしですかを付けて、強制終了させる」という使い方だ。私は、小説ならいくらでも書けるのだが、オチをつけられない。未完の小説ばかりが増える。その状況を変えてくれたのが「なんのはなしですか」だ。

 どちらも、元々の使い方とはかけ離れた、それこそ「なんのはなしですか」と言いたくなるような使い方なのだが、言葉とはそういうものだろう。
 使い手が増えるにつれて、意味が広がり、想像もしない意味を持ち広がっていく。

 多分、私はいつか出会うに違いない。何気なく読んだ記事に使われている「なんのはなしですか」というフレーズに。記事の作者は、言葉の謂れやオリジンを知らない。知らずして、自分なりの意味を込めて、そのフレーズを使っている。そう遠くない将来に、そんなことが起きるだろうと予測する。
 一人の男が投げかけた言葉が広がり、各人の創作を支える力になる。そんなムーブメントに私たちは立ち会っているのだ。
 まずはnoteの運営がその重みに気付いてくれることを願いつつ。

#なんのはなしですか


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海人
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