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俺のサイゼ

 かみさんがサイゼ文学賞とやらに参加したという。サイゼの食事券でも配る賞かと思ったら、そういうわけではないらしい。サイゼリヤにまつわる話を投稿するだけなんだと。

 俺の話も出てるんだってよ。まあ、かみさんは友達が少ない奴だから、亭主の俺を登場させるしかないんだろう。
 友達は少ないし、子どもはネタにしないと決めてるらしくてな。大人になって、自分がネタにされていたと知れば、不快になるかもしれないと言ってる。別に、かみさん如きが誰かを不快をするほどインパクトのある話を書けるとも思わないが、その気遣いや良しと思っておこう。

 自分がどんな文脈で登場するのか気になったから、かみさんの記事を覗いてみた。
 サイゼでは、俺がミラノ風ドリアばかり食べるという話だったよ。 

 何だ、それ。他の料理も食べるさ。ハンバーグとか……パスタもあったよな。ミラノ風ドリアが好きなのは確かだが、そればかりというのは大きな誤解だ。
 そういえば、息子の授業参観でも、お父さんの好物として、「サイゼリヤのミラノ風ドリア」と発言していたな。わざわざサイゼリヤと固有名詞まで出すから、他の保護者が笑ってたぞ。まあ、好意的な笑いではあったがな。誰だって、サイゼのミラノ風ドリアは好きさ。チーズが苦手な奴以外は。

 だが、ほんとのとこ、俺にとってサイゼといえば、ミラノ風ドリアなんかじゃない。
 サイゼといえば、ワインのマグナム瓶だ。1500ミリ入ったドデカなやつ。あれにはお世話になった。赤と白、どちらもよく飲んだ。

 いつだったか、立石のうちだで焼酎を3杯ほどひっかけて……うちだは知ってるだろ? 今じゃせんべろの聖地として知られる店だ。あの頃は、ただの薄汚い居酒屋だったけどな。確か、あのあたりは再開発するはずだから、うちだに興味があるなら、早いとこ行っておいた方がいい。

 それで、何だっけ。そうそう。うちだで3杯ひっかけて、2次会が船橋のサイゼ。マグナム瓶を赤白と空けて……いい気持ちで私鉄に乗ったところまでは覚えているんだが、その後の記憶がない。
 携帯の音で飛び起きて、電車が停まっているから慌てて降りたが、見覚えのない駅だ。
 寝過ごしたなと思って、しつこく鳴ってる携帯に応じた。

「ちょっと、今、どこ?」

 かみさんの声が携帯から聞こえる。かなり怒っているようだ。

「今……? 帰宅途中だよ」

「帰宅途中って、どのあたりなの?」

「ん……」

 ホームを歩いて、駅名表示を探す。

「岩槻……」

「岩槻!」

 驚いたようなかみさんの声で我に返る。岩槻といえば、埼玉県じゃないか。千葉県の船橋から柏まで乗る筈が、埼玉まで来てしまったのか。

「また寝過ごしたんでしょ!」

 違うとは言えない。

「あのね、柏駅で駅員さんが網棚をチェックして、あなたのカバンを見つけたの。このカバンの持ち主はいらっしゃいますかと訊いても誰も名乗り出ないから、回収して……あなたが財布に入れてた名刺を見つけて、携帯に電話してくれたみたいなんだけど?」

 そんな電話が? 言われてみれば、ポケットに入れた携帯以外、所持品がなかった。

「あなたが出ないから、一緒に入れてあった私の名刺の携帯番号に電話がかかってきたんだよ! 今頃、社用携帯が鳴るから、何かと思った。電車を乗り過ごすのはまだいいとして、網棚のカバンを駅員さんに回収されても起きないとか、駅員さんの電話でも起きないとか、何なの? 駅員さんも忙しいのに、いい迷惑だよ!」

 かみさんに平謝りして、岩槻からはタクシーで帰った。深夜料金だから割り増しだし、東武柏駅には菓子折りを持ってカバンを回収にいくしで、ずいぶん高くついた。

 あれ以来、少人数の飲み会でマグナム瓶を赤白両方頼むのはやめたよ。1本で十分だ。1本で楽しく酔える魔法の酒だな、サイゼのマグナム瓶は。

 
妻側の記事


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海人
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