2番手の男

これは30歳を越えた僕の慢性的な肩凝りに悩み苦しみ、救いを求めて試した様々なマッサージと、そこで知り合った印象的な人との出会いの記録です。ご興味があれば1回目は下記をご覧下さい。

30歳を越えたあたりから、慢性的な肩凝りに苦しめられていた。3~4年前くらいに、近所のイオンモールの2階フロアを歩いていると、

初回整体・骨盤調整60分3500円という看板があったので、フラッと整体院へいきました。

ラガーマンのようながっしりした体型の兄さんが案内してくれた。どうやら院長だった。

まず骨盤調整ということで、謎のベッドに寝そべりよくわからないレバーを院長がひくと、瞬間的に僕の腰が少し低くなった。

詳しいことはわからないけど腰の位置を調整とのことで面白かった。

その後マッサージを受けた。

院長から今までの運動歴を聞かれて、高校1年の秋まで野球部。しかし挫折し、陸上部へ転部して、それ以降は大学卒業まで陸上部と答えた。 

院長は高校3年間、野球に青春を捧げた高校球児だった。

年齢も一つ下と聞き、もう同世代が院長になるような年齢なんだなとぼんやりと思った。

院長のマッサージはうまかった。パワーもあるのに、テクニックもあり、僕のツボに良い感じでクリーンヒットした。惚れ惚れする指圧だった。 

がっしりした体育会系の見た目のわりに、なんとなくセンスいうか器用さを感じ、

きっとポジションはサードあたりでシュアな打撃だったんだろうな。3番くらいのクリーンナップかなと予想し確認したら、照れ臭そうに「4番サードです」と答えたので「花形じゃないですか!すごいですね。」と伝えた。

きっと打球も、グラブで受け止めずに厚い胸板で受け止めるタイプのサードだろうなとかどうでも良いことを考えながら指圧を受けていた。

僕は高校野球に挫折し、陸上部へ転部した人間なので、高校野球を3年間頑張った経歴を持つ人には、レギュラーだろうがベンチだろうがスタンドでメガホン持った応援部隊だろうがマネージャーだろうが、


3年間最後までやりあげた人ということで一定の敬意を払うことにしている。

院長とは野球の話で盛り上がり楽しかった。

肩だけでなく、体全体が軽くなったので2回目の予約を取った。

5回分の料金で6回60分3万円を越えるチケットの購入をすすめられたけど、そこは保留にした。

2回目の施術を受けた時にも、やはり院長のマッサージは気持ちが良いのでこれはチケットを買おうと決めていた。


しかしその日は、院長は何を話しても会話が前回と違ってどこか上の空で、あら?どうした?と違和感があった。

心ここにあらずというか

そしてマッサージの手を止めて、


「すみません。実はマツダスタジアムであるカープの試合を友達と見に行く約束をしてまして、ここからは別のスタッフが対応させていただきます」と言われた。


なんとなく盛大にフラれた気分になった。


「俺という男がいながら、カープをとるというのか。これから常連になろうかという男を捨ててまでカープをとるのか?せっかく回数券を買おうと思ってたのに!」と


恋人に二股をかけられた挙げ句、実は本命はあなたじゃないと選ばれなかった2番目の男女はきっとこういった気分なんだろうなと思った。

知らないけど。

そして院長に捨てられてやさぐれた気分になったということで、ここから先は厳しめで乱暴な言葉遣いになる場面があることをどうぞ許して欲しい。

何せ客よりカープを取りフラれた2番目の男と2番手のマッサージ師なのだから。

院長から引き継いだ2番手の男はスリムな体型のフレッシュな兄さんだった。女性にはモテるようなシュッとした見た目だった。


僕が女性であれは、「うわ~イケメン。どうしよう!ステキ!モデルみたい。彼女はいるのかな?ワクワク♪」みたいなトキメキがあるのかもしれないが


あいにく僕は男性で

僕が好きになるのは女性で、

マッサージに求めるのは指圧のパワーとテクニックと日常を忘れる癒しだった。

「おいそのひょろっとした体型で大丈夫か?見た目も若いし、学生だろ?バイト君が俺のゴリゴリに凝った肩凝りを満足させられるのか?」という心模様だった。


彼のマッサージは信じられないくらい下手だった。


学生時代に陸上部だった際には、仲間同士でマッサージをし合うこともあったので、


実は素人にしてはマッサージが上手いと言われる自分の方が上手いと思った。

マッサージというより、サワサワとなでられているような弱さだった。

ツボに全然クリーンヒットしない。打ち損じが多すぎる。

たまらず「もう少し強くしてください。」とお願いした。

マッサージ師に対して「強くしろ」とお願いしたのは、後にも先にも彼だけだった。

そして彼は「わかりました。」といって強くした。


さすられているだけだった。

「これがお前の本気か?お前の本気はそんなもんなのか?」と心の中では思った。


院長に捨てられ、しかも二番手の男からくりだされる力のないマッサージ

これで初回より2倍近くの値段とられるのかと思うと

だんだんイラっとしたのを覚えている。


スポーツをしてそうな見た目だったので、何か運動をしているのか聞くと、彼も元高校球児だった。



少しイラつきがおさまった。

3年間高校球児として、務めあげたことへの一定の敬意を払うことにしているからだ。

何のポジションか聞くとピッチャーだと答えた。

きっと軟投派のコントロールで勝負する中継ぎピッチャーだろうなと思い、

コントロールで勝負してましたか?と聞くとその通りだった。

ついでに中継ぎ的な立ち位置だった。

バッティングもホームランは無理だろうからバントとか盗塁とか小技で勝負するタイプだろうなと思い「小技で出塁して、盗塁とか得意でしたか?」と確認したら、



「その通りです。何でわかるのですか?すごいですね!」と二番手の兄さんは驚いた。


僕は一定の敬意を払うことにしているので、「きっとテクニックで勝負するタイプの選手だったんだろうなーと思って」と答えた。


てめぇのマッサージのパワーが全然足りねぇんだよぉぉぉぉおお!


と心の中では荒ぶっていた。


施術後、予定どおり初回より2倍近く高い料金を支払い、

二番手の兄さんから、回数券の購入をすすめられたけどもちろん断り

また良いマッサージはないかと探すことにした。

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