3度目の正直

僕がマッサージに求めるものは、指圧のパワーとテクニックと、癒しである。

 色々なマッサージを受けてたどり着いたのは、結局この3つだった。


仕事柄どうしても肩や腰が凝るので、休日に色々なマッサージを受けに行っている。

今まで出会ったマッサージ師の施術や会話で、特に印象に残った話があるので、投稿する。

ご興味があれば1回目はこちらをご覧下さい。

2回目はこちらです。


2年前に、リンパマッサージを体験した話である。

当時は今より10キロ太っていた。

「最近ストレスで顔がむくんでいるぞ。リンパマッサージを受けてみたらどうだ。」と知り合いからアドバイスをされた。

それがきっかけとなり、リンパマッサージのお店を近所で見つけて、通うことにした。

お店の雰囲気はアジアンテイストで、落ち着きがある。

担当セラピストは、40歳手前の少しぽっちゃりで、綺麗な見た目の中国人だった。

日本語をしゃべることはできるが、敬語は難しいらしい。

施術が始まりわかったのは、不健康だった自分には、リンパマッサージはめちゃくちゃ痛いということだ。

特に脇付近とももの内側。

「アナタ何歳?こんなに痛がるのは、相当リンパの流れワルイヨ!」と中国人セラピストに言われた。

その当時、32歳だったので、それを伝えたら

「32歳?アナタの体は40歳を越えテイルヨ!今年40歳になる私より、体は老化シテルヨ!」と残酷な現実を突きつけてきた。

相当リンパが滞っていたらしく、僕は施術の間ひたすら悶絶した。


中国人セラピストから、「最低3回は来ないと良くならない。だからあと2回は来たホウガイイヨ!」と言われたので、あと2回通うことにした。


とにかく体がしんどくて、なんとか改善したかったのだ。


施術後は、リンパが流れたからか、悶絶した疲労もあるからか、家に帰ると睡魔が襲ってきた。

2度目のリンパマッサージも痛かった。1度目ほどではなくとも、悶絶した。悶絶するものは悶絶する。痛いものは痛い。

3度目の正直で、リンパが流れるようになり、悶絶はするが最初よりはマシになった。

自分の肩まわりも、腰までスッと体が楽になるほど、劇的な改善だった。


彼女のマッサージ技術は凄まじく、中国4千年の歴史を感じる施術だった。


会話をしながら確信したが、きっとこの中国人セラピストは、ドSだったのだと思う。

何故なら僕が悶絶すると、嬉しそうだった。

「ホラ!ココイタイネー。トドコオッテッテルヨー」

僕はそうゆう趣味はない。


だだ、彼女の言葉遣いは悪いが、善人ではある。


例えば、お客である僕への質問の仕方は、警察の取り調べのようだった。

「肘のまわりの、筋肉が異常にハッテルヨ!こんなとこ普通ハラナイヨ!あなた何した!?体は正直よ。私の目はゴマカセナイヨ!何か最近おかしいことなかった!?」

…接遇も何もあったものではない。

「睡眠中に無呼吸になることがあって、人から心配される」と僕は伝えた。 

犯人が自供する時の気分が、少しわかった。

すると彼女は「オゥ!それだ!カワイソウニ!ほぐしておくね」と両手を口に当て、アメリカ人並の豊かなリアクションで同情をしてくれた。


感情が豊かで面白い人だ。


会話を重ねる内に、僕に心を開いたのか、彼女の苦労話を聞いた。


昔から色々な人から、秘密やら悩みやら打ち明けられるので慣れてはいる。

自分から話を始めたので、話を聞いて欲しかったのだと思う。

打ち明け話の内容は、ざっくりというと


・日本に来日した時は工場労働者だったが、日本人の工員による陰湿ないじめあった。

・日本人は自分たちと違う人間を攻撃する。

・水商売をやった。

・男に騙されて不倫関係になった。

・子どもが生まれてからは、母子二人で必死に生きてきた。

・手に職があれば、生きていけると思って必死にマッサージの技術を学んだ。

…波瀾万丈なこれまでのあゆみを語られた。

「ここが変だよ日本人!」と文化の違いからくる、日本人への疑問も遠慮なくぶつけられた。


 異国の地に女ひとりで、必死に生きてきたのは心からすごいなと思った。


ただ…


僕はこの話を、リンパマッサージで悶絶しながら、聞かされたのだ。

立場が逆だ!    

百歩譲ってスタバで話せ!

スタバは、オシャレな雰囲気で、大体のことは中和してくれるから。

悶絶しながらも、合いの手をいれ続けた自分は意外と器用だった。
 

「大変でしたね。」 

「苦労されましたね。」

「頑張ってきましたね。」 

「日本人がなんかすみませんね」

このフレーズを何回使ったのだろう。

でも僕はカウンセラーではない。

マッサージを受けにきた僕には、体も心も苦しい拷問のような施術だった。


指圧のパワーは抜群、技術も抜群、しかし癒されなかった。たぶん、癒されたのは中国人セラピスト。


最後の施術を受けてから3ヶ月後に、そのリンパマッサージのお店はつぶれた。

何故つぶれたのかは、なんとなく察した。

 
中国人セラピストが今どうしているかはわからない。


生きていくために身につけた、凄まじいマッサージの技術があるから、食べてはいけると思う。


これからの出会いで、少しは日本と日本人を好きになってくれたらいいなと願う。


そして、僕はまた新たなマッサージのお店を探した。

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