人生最後の日
どうやら明日が人生最後の日らしい。
最近、テレビをつけるとどのチャンネルもその話題で持ちきりだった。
人生最後の日をどのように過ごすか。
僕もそれを考えていた。
しかし急に過ごし方を変えるのも面倒くさい。
いつも通りの日常を過ごして、今までの幸せだったことを思い出しながら最後の時を待とう。
そう決めて眠りについた。
翌日。
爆発したのかと思うくらい大きなボリュームのアラームが部屋に鳴り響く。
夢の世界から一気に現実に引き戻された。
今日はいよいよ最後の1日。
まずは、二度寝をしよう。
そう思った瞬間もう眠くて寝た。
再び目を覚ますともう昼になっていた。
心地の良いまどろみだった。
人生最後の日なのは最後の日なんだけれども、仕事に出よう。
普段通りスーツに着替えて会社に向かう。
でも、みんないるのかな?
普通は人生最後の日って、会社とか休んで自分の好きなことに費やすようなイメージなんだよな。
そう思いながら車を運転し、あっという間に会社に着いた。
想像以上にいつも通りと同じ台数の車が停まっていた。
あれ、みんな来てる?
みんな、あんなに会社のことで愚痴ってたのに、結局は好きなんじゃないか。
入り口から会社に入り、みんなに挨拶をする。
「すいません遅刻しました。こんにちはー!」
みんなも「遅かったなー、遅刻だぞー!」と言いながら笑って返してくれた。
ただ1人、社長は違った。
とんでもない形相でこちらを見ていた。
そして、僕は社長室に呼ばれた。
「今何時だと思ってるんだ!今日が最後の日だからといってしていいことと悪いことがある。遅刻はダメだ!◯△□×etc…。」
長すぎる説教。
最初の3文しか記憶にない。
あとはもう最後の1日だから、どーせ聞いても何にもならんと思って無視した。
そこから通常業務に戻った。
隣の席の先輩に聞いてみた。
「なんでみんな普通に過ごしてるんですかね?」
「この会社が好きだからだろー。お前もそうなんじゃないのか?」
「まぁ好きですけど。」
「そういうことだ。」
そんなもんなのか。なんか最後の1日って、もっと変わったことが起こるかなって思ってたけど案外平凡で、それだけみんな日常を愛していたのだなと感じた。
普通に仕事をし、普通に家に帰り、普通に晩御飯を食べた。
何もかも普通だったが、その普通の全てが、これで最後なんだなと思うとしみじみした。
人生の残り時間に愛おしさが溢れてきた。
最後の瞬間まで起きていようか。
いいや、最後まで普通通りに過ごそう。
23時、僕は布団にくるまって寝た。
もうアラームも必要ない。明日は来ないのだから。今まで関わってきたみんな、ありがとう。
最高に幸せだったよ。
そう胸の中で唱えて瞳を閉じた。
翌日。
翌日?
何故かまだ生きている。
急いでリビングに行き、テレビをつけた。
するとこんなことが放送されていた。
「“人生最後の日詐欺”にご注意を!!!一部地域のテレビ局はハッキングされ、偽の情報が流れていたことが判明しました。みなさん、嘘の情報に惑わされないように。」
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