SF小説紹介 『スターシップと俳句』
なぜ今『スターシップと俳句』なのかと言うと、作中の多くの時間が、2023年から2024年となっていたからだ。このことに気づかずにいるところだったが、たまたま本棚にあったこの本をぱらぱらとめくって日付に気が付いた、という、単にタイミングが良かったくらいのものだが。
『スターシップと俳句』 ソムトウ・スチャリトクル:著 冬川亘:訳
まず、その奇妙なタイトルに気を惹かれるだろう。私も出版されたばかりのこの本を本屋で見かけて面白そうだと思って手に取って買った。
まあ、想像していたよりもだいぶ斜め上な発想で書かれた小説だった。
俳句、とタイトルにあるくらいなので、各章の前に、芭蕉などの俳句が紹介されている。一応、章の内容とリンクしてはいるようである。
日本での出版は早川文庫からで、1984年10月。ちょうど40年前だ。
裏表紙のあらすじでは、イシダ・リョーコなる人物の名前が出ているが、この人物は主役ではない。全体のストーリーのキーマンという感じ。
主人公として、この小説の狂言回し的位置にいるのは、ジョッシ・ナカムラ、という人物だ。
英語で書かれた小説を翻訳しているので、日本名であっても、漢字は充てられていないので、全て人名はカタカナになっている。
作者のソムトウ・スチャリトクル、と言う名前もあまりなじみのない響きだが、タイ生まれでイギリスなどで生活して、英語で育ったということだそうだ。両親がタイに戻ったので、それからタイ語を勉強して喋れるようになったが、小説を書くレベルではない、と巻末のインタビューで答えている。
日本に滞在していたこともあるそうで、その時の体験などがこの小説にはいかされているのだろう。
タイ人、ということだが、英語環境で育った人だからか、小説の中の日本や日本人の表現は、昔からよくある、サムライ、ハラキリ、フジヤマ、ゲイシャという、典型的なものとそう変わりは無い印象だ。
わざとそうしている面もあるのだろうが(インタビューでもそう答えていた)、私には、それはハリウッド映画などで目にするものと大差ないものだった。
1980年代、捕鯨に関する日本への圧力というものが高まって、動物愛護運動の活動家などが日本の捕鯨やイルカへの対応を非難する、というニュースがよく流れていた。それは、後にシーシェパードなどの活動へつながっていくが、そうした時代背景もこの作品に影響しているだろう。
欧米からみると、異なる人種、異質な言語と文化に対する、漠然とした不安とでも言うような感情を日本人に対して持っているのかもしれない。
マイケル・クライトンだったか、宇宙人より日本人と意思疎通する方が難しい、とか、そんなことを言っていたのを読んだ記憶がある。
ちょっと他ではお目にかかれない、珍しいSF小説であることは間違いない。日本人からは出てこない発想で書かれた小説だとは思う。面白いと思うかどうかは、読み手次第だが。
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