ソフト・マシーン――大導寺家殺人事件 川柳一〇八句 尼寺 透
第一章 大導寺ナヲキの犯罪 四九句
フーダニットの針が挿さってゆく水風船
黄金比もなくいちめんの襖
犯行予告書の音韻をしらべ
不在証明されるなか螺子のない家
純血の従姉妹に黴
思考機械の老いてゆく旅 氷山
祖父のアストラル体にぬかずくまで
一望監視どの出目金魚も死んで居り
犀をつぎはぎする石鹸嗜好者 闇
偽近親交配の偽パンチカード
探偵の履歴午前零時の鐘
超蝶チョムスキーの血にまみれ
変装する祖母の衣ずれ
カート・コバーン銃器店の革袋
復員兵どもりつづける頌歌
病院船と分身する兄
音波みたされて章魚を飼う義姉
謎 阿房列車に血小板のとめどなく
水晶体をみせにくる早世の妹
行司仆れじぶんの履くずぼん
ついにパントマイムの探偵が眠る
酒場の牛の涎 悪魔学
霊的えくすたしいにダンゴ虫の群れ
無言人形朝焼けをかきむしる室
クロロホルムを煮る弟なのかもしれず
死者が遺すあんこというあんこの一つ
豚テキの壺中天に血みどろの父の告白
母 ながい空白
神鳴山古墳副葬のドッペルゲンガー
卵生と胎生の友がもう居ない
破戒者蹌踉たる足どりに芋嵐
鍵のかかる部屋鸚哥はすでにころした
アリクイを孫引く朝の犯行現場
芒折りてインナーマザーのハラキリ
猿山の炎に天と地のしじま
百目鬼さんのシャツに無惨絵の剥げて
殺人鬼のかぼちゃをけさも磨く
海底都市にきのこ捜査もせず
牙がはえてくるただ単にプランター
豚小間肉に肌色を塗るナヲキ
逮捕の日イルミナティの粘土
空白無にあらず煙突さらに煙突
犀のポーズを裁くテレビ東京への長い道
偽証の彼らに新蕎麦のひりつき
結審さぞ十一月の〈泉〉
つぐないのふとんにひらがなをかく
兎像が壊されて冬のはじまり
消える あんパン以上の罰パンかかえて
アダム伝ひらくおまえの罪の名のかわりに
間奏 プラネタリウム獄中句 十句
宇宙船ダブルバインド号難破
バロウズに火星音頭の書をとぢる
オクトパス天文台といふ美文
五次元の世界を殴るなにぬねの
平熱で阿Qのひろばより帰る
凸凹の字にふれそめる奴国王
きのこちやん人形バラす霧の国
あぶな絵をウラララマンが振りかざす
神の名がうまい官能小説家
てれすこの筆順のほかなにもない
第二章 大導寺ナヲキの告白 四九句
罪に名などあるものかガンマナイフ
懺悔録のシンメトリカル犬小舎を建て
ピンナップ双生児とおなじ窒素吸う
たとえば小堺一機。を催眠の王として
罪責感なきサキソフォンをのがれる
薄情の劇画家にグリーンベレー
善も悪もめぐり銀河シティの人びと
血糊という髪型
蟹の手のメディア化粧されて咎びと
りら荘のリンボーダンス涙せよ
仏陀をころせハイヒール磨く
ボブ・ディランや赦されざるさかな
ドラえもんを壊してきた病理の理
まちがもえてゆくわたしの拘束衣
なぜあんなことをしたのだろう文字起こす
園内空港のハスキーヴォイスにて判決
犀の滝をおちてゆく囚人服
刺青されてストップウォッチ
林檎をうしなって無限人羽織
かき消えるコモン・センスうどん畑焼く
いとこ煮のナヲキが死んでよかったの
煙草の花に二〇〇一年辺獄篇
繭に入る昼の儀式
贖罪の志村けんに性欲がまじる
さいなむ手でひらく書肆天上堂の扉
宗教家の芋けんぴ破獄などしない
センス・オブ・ワンダー頸屋の猫
パンダに墓碑銘があるものを あるものを
殯というドクター・ノオの終わり
新喜劇に視えない星をたしかめる
国家音もなく崩れにんにくシチュー
パラダイスもうずっと犬が蹤いてくる
真冬がちかい筆順と筆算をくらべる
橋のかなたに透明少女ブートキャンプ
燃えあがる木になにも棄てられないおまえ
死火山地帯ぬいぐるみをぬぐ
骨頂のパチンコ球いつまでも陽は沈む
パパとママの鶏姦に朝陽のあたる家
借り物の言葉にミッシェルがつきまとう
連珠自己暗示をしぼりきり
絵文字荊冠伝ユングたわみ
はるばると処刑場くさい酒をのむ
地球にひとつの月齢おれが滅びても
ハン・ソロの地名に埋まるされこうべ
ヨーグルトを垂らして老いてゆけたのか
真犯人の名まえを雪と句に書きつづけ
きちがいの句 炒飯をかぞえる
パラパラ漫画の神聖家族に雪
神=罪の名に耳をちぎれ
(一〇八句)
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