認められない理由 不相当に高額な役員報酬
こんにちは
セカンドオピニオン税理士の
宮崎貴美子です。
今日は
納税者が、適正報酬額がいかなる金額であり、どの程度の報酬を支払うと税務当局に「不相当に高額」と認定されてしまうかが全く分からない、と主張した裁判事例、東京高裁平成23年2月24日判決(税務訴訟資料 第261号-33(順号11623))を紹介します。
しょうちゅうの製造及び販売等を目的とする同族会社が、代表者の妻の取締役報酬として支払った金額は
平成16年5月期 800万円 (月額約66万円)
平成17年5月期 2400万円 (月額200万円)
平成18年5月期 2400万円 (月額200万円)
その理由は、代表者の妻は、取締役として
従業員や社長の精神的サポート、接待業務等に従事しているところ、それらの業務は、単なる妻ではなく、日常的に社長と生活を共にしつつ、経営上のサポートを行う者の業務として評価されるべきものだというものでした。
これに対して、次のように裁判所は判断しています。
接待業務等については、代表者妻がこれに従事した時間が極めて少なく、その具体的内容が必ずしも明らかでないことからすれば、これによる営業上の効果が大きいとしても、常勤の役員としての業務に該当するとはいえない。
代表者妻が行っていたという精神的サポート等の具体的内容、そのために行った具体的業務に要した時間や日数、その業務が会社の業務執行に与えた影響の程度等は何ら明らかでなく、常勤の役員としての業務に従事していたと認めることはできない。
取引先との家族ぐるみの付き合いや他の会社の代表者の妻とのネットワー クの構築に尽力するなど、社長の妻として重要な役割を果たしているともいうが、こうした役割分担は、妻が夫である代表者の社会的活動に協力しているというに止まるものというほかなく、これらのことをもって会社の常勤の役員としてその業務に従事しているものと評価することはできない。
つまり、
常勤役員として業務執行に従事していたのではなく、
いわゆる非常勤の役員としていくつかの職務に従事していたものと認めるのが相当であり、
代表者妻の役員としての職務の内容として固有のものがあったとは認められないとし、
適正報酬額とされた月額10万円は、同種の事業を営み類似の規模を有する類似法人として適正に抽出された比較対象法人において代表者妻と職務内容が類似する役員に支払われる報酬額の平均値に比準して算出されたものであり、これが社会的な実態とかけ離れたものということはできない、と判断されました。
この非常勤役員としての適正報酬額とされた月額10万円については
所轄税務署長が、比較対象法人を熊本国税局管内の単式蒸留しょうちゅうの製造業者で、類似の規模を有する法人に限定し、これらの比較対象法人において類似役員に支給される報酬額の平均値に比準して代表者妻に係る適正報酬額を求めたことは、法人税法施行令の趣旨に沿うものでありこれを不合理であるということはできないとしたうえで、さらに、
代表者妻の報酬が増額されたのは、平成15年ころから、製造するしょうちゅうの知名度が向上し、業績が急に良くなったためであり、
代表者妻の役員報酬のうち、毎月20万円程度は銀行振込がされていたが、残りは、夫である社長が現金で受
け取っており、代表者妻は給与明細書も受け取っていなかった、
ことから、納税者の主張は認められませんでした。
適正報酬額とされた月額10万円と申告書上で支給されていた月額200万円との差額は
業務の対価ではなく、利益処分として支払われたものだと判断され
「不相当に高額」であると否認されたわけです。
役員賞与が利益処分であるとする考えは昔からあり、
役員の場合は常勤をしていなくても役員報酬を支給することができ
同族会社では、家族に支払う役員報酬の額を取引先等に迷惑をかけることなく容易に決めることができるので
節税対策としてネット上でも取り上げられています。
高額の役員報酬に対して、所得税を負担しているからよいのでは、という問題ではなく
役員報酬は役務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきものであり
代表者の家族に支払う役員報酬を隠れた利益処分として扱われることが問題であることが
調査官が指摘する理由です。
国税職員だった頃
ある税理士が、調査の時に調査官の「不相当に高額なので認められません」の発言を受け
「不相当に高額」とは「調査官の感覚ですか?」と質問されたことがあります。
調査担当者の感覚は、月200万円の支払いが役員としての業務に見合ったものか
他人に同じ業務を依頼したとして、その金額を払うのか
同じ業務を他人に依頼できないにしても、役務の対価として適正か
税の公平性からみてどうかに焦点を当て調査しているんです。
憲法で定める「納税の義務」は「実質的に平等な税負担をする義務」であり
「経済的な能力に応じて税を負担する」ということです。
会社の業務にも経営にも係わっていないのに、役員登記されているのだから報酬を払える
という考え方は間違いです。
未成年で就学中の子どもを取締役とし、報酬が振り込まれる通帳は代表者が管理していたり
遠隔地の別の場所で常勤で働いている子どもに常勤なみの高額の役員報酬が支払われていたり
争われた事例は数多くあります。
不公平をなくし、課税の公正を確保するために、法律があります。
法律には金額について明文化したものはありませんが、
「不相当に高額な部分の金額」を認定するために
法人税法施行令第70条第1項第1号イで「内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」と規定し
これに該当する場合は
法人税法第34条第2項で「不相当に高額な部分の金額」はその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定されています。
経費一つとっても、色々な解釈があります。
調査担当者の「認められません」に疑問が生じ、声を大きくする人も沢山みてきました。
知らない法律、知らない国税のルールにより
良かれと思っていたことが否認され、加算税や延滞税を含めた追徴税額を払うことになります。
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