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二十九歳からの不安定生活入門

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二十九歳の春。 気の毒なほど優しい團さんと、あけすけで大雑把な篠宮に見守られながら、不安定な暮らしと仕事を始めた。そんなフィクション
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#気胸

3月6日 テレワークをする

3月6日 テレワークをする

 キンカン、と手元で音を鳴らしているようなインターホンが鳴る。居室の戸を開けて布団をひいており、廊下から玄関までが寝た体制で見通せる。廊下は暗く、覗き穴からの光が控えめに青く光っていた。キンカン、がもう一度。私は居室の戸を閉めて、綿入り半纏を羽織り、團さんを出迎えに行く。

「災難だね。俺も気胸は五回くらいなったんだけどね、昔。今回初めてでしょ、手術しなくていいの。」

がいがいがい、團さんの口癖

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3月5日 夜間救急に行く

3月5日 夜間救急に行く

 その日はとても天気が良く、暖房なしでも事務所の中がほわほわと暖かかった。電気を消してブラインドを開ければ、手元を見るには十分すぎるほどの日差しが差し込んだ。今日は事務所に私ひとり、團さんも篠宮も、中西課長をはじめとする協力業者のメンバーも全員いない。私以外の人は、皆セミナーに出かけていた。セミナーの参加権は私にはない。そんな中で、面倒見の良い中西課長は私のぶんの仕出し弁当も注文してくれて、團さん

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