ショートショート『ふくふくサプリ』
家のポストに、通信販売らしき封書がはいっていた。封をあけると、ストレスが解消されるというサプリのパンフレットだった。価格は6錠で五千円。ひと粒だけサンプルとして同封されている。この薬は楽しくなるものらしいのでさっそく飲んでみた。
しばらくすると心臓の鼓動がはやくなり、体が妙に熱くなってきた。気分が高揚し、わけもわからずウキウキとしてくる。どうやら効き目はあるようだ。ストレスもたまっていた。五千円で楽しくなれるなら安いものだ。
私はそれから何度か注文をした。その会社はそのつど住所をかえた。どうも非合法な会社らしい。価格も注文するたびに値上がりしている。それでも習慣になってしまい、高くても注文せずにはいられない。なぜだか妙に腹が立つ。電話など通じないとは思ったが、とにかく非通知で電話をしてみた。
「はい、ふくふく商事です」
若い女性のはなやいだ声が受話器から聞こえてきた。
「飲んでるサプリのことで電話してるんだがね」
「毎度ありがとうございます。ふくふくサプリのことですね」
「ああそうだよ。まるで麻薬みたいにやみつきになってしまったよ」
「はい、毎度のご利用本当にありがとうございます。ですが、ふくふくは麻薬のような副作用はございません」
「嘘をつくな。だいいち俺はさようですかとひきさがる男じゃないぞ。おおっ電話の向こうで笑ってるな、ギャグのつもりでいったんじゃないぞ。警察にいって訴えてやる!」
「どうぞお好きなように。たとえばふくふくサプリを服用しますと、気持ちが大きくなって、なんでも大げさに言いたくなるのですよ。いずれにしましても、ふくふくサプリは麻薬ではありませんし、私たちどもが、どうにかなりましたら、生涯、このサプリが手に入らなくなりますよ」
俺が大げさに言っているというのか。人の気持ちを見透かしやがって、なんてやつらだ。それにしても暑い。俺は下着も脱いで裸になった。
「体が熱いぞ、体にも有害(ゆうがい)なのか?」
「お客さま、もちろんユカイになるサプリなのですよ」
ゆうがいをユカイだと聞こえてる? ふざけてる。ああ言えばこう言う。てんで話にならない。
「あんたら、なにをいってもまじめに答えないつもりだな」
「はい、私たちみんな、どんなお客さまでも応対できるように、肝っ玉が太くなるよう、ふくふくサプリを飲んでいますから」
(了)
星谷光洋MUSIC Ω『冬のひまわり』ラブソング
トップ画像のクリエイターさんは『ダラ』さんです。
ありがとうございます。😀