FGM:女性器切除

皆さんはFGMをご存知ですか。日本では馴染みのない言葉ですが、これは世界各国で問題視されている女性の性器を切除すること:fetal genital mutilationのことです。主にアフリカ、一部アジアで伝統的に行われています。FGMについて、強く記憶に残っているエピソードを記録します。 


とある日。胎盤用手剥離とナートでひときわ叫び、暴れている人がいた。
見える?見たことある?と医師がボランティアに聞く。
陰唇のない陰部。
FGM。
マサイ族。(タンザニアには130の民族がいると言われている。特にアルーシャに多いのは、サファリなどにも多く住むマサイ族という民族だ。彼らは、特徴的な衣食住であるため、ツアーなどもよく組まれている。赤いチェックの布を巻いて、男性は木の棒を持って、女性は地位が高い(年齢が高い)ほど耳や首にビーズの装飾を多く身につける。元々は放牧を生活の主とする民族だが、都市への移動も多く、普通の格好をしているマサイ族も街中にはたくさんいる。ここで挙がっているFGMをしているマサイ族は、民族の掟が根深い、所謂「マサイ族」の人たちである)

大事な処置だから動いてはいけないけど、足に木の棒をくっつけたように伸ばして曲げず、お尻を浮かして、左右の足をスタッフが抑えて診察する状況。
大の大人が押さえつけても、その足は、そこらじゅうを蹴りまくり、器具も血飛沫も飛ぶ始末。


午後も、マサイ族の妊婦さんがいた。
やっぱりFGM、そして胎盤遺残。医師が手を突っ込んで胎盤を取ろうとするとベッド柵に足が挟まろうと頭を打ち付けようとお構いなしに暴れ回る。6人がかりで抑えても体が逃げてしまいなかなか診察できない。
結局30分近く押さえつける暴れるの繰り返しだった。


あまりにもFGMの2人は似ていた。
2人とも共通して、目は見開かれ、虚に空を見ている。
言葉にならないなにかをずっと口にしている。
母親が、助産師や医師と共に産婦を押さえつけ、そして動くたびに叱っている。
どんな痛がりの人でも、こんな拒否の仕方をする人は日本でみたことがなかった。
恐怖が強いのだろうか、そう思ったら言葉にならなかった。
この処置も必要ないものであればすぐやめてあげたかった。
きっと、同じように何人にも押さえつけられて、嫌がってもやめてもらえず、性器を切除された経験があるのだろう。
母親もその母親も同じように性器を切除されてる、痛みを解っているはずだが、出てくる言葉は、「動くんじゃない、ちゃんとしなさい。」

世界には、西洋医学では説明できないような医療ケアが沢山ある。私たちが現在学び主軸としているのは西洋医学だが、それが主軸ではない地域では私たちの考え方はある意味異端に思えたりするものだ。だから、国際協力において、自分達が相手を変える、と考えるのは間違いだし、自分達の物差しで全ての物事を判断してはならない、とよく言う。
私にとってのはじめてのアフリカ、まずは現地の文化をよく知り、理解することを目標に取り組んでいた。何かを変えようという意識は持たないよう心がけた。しかし、西洋医学観点での私の知識や考え方云々の問題を抜いた上で、私が実際に見て、いくらその地域に根ざした伝統であろうとやはり無くさなくてはならないものがある、と強く実感した一つが、このFGMであった。
現地の医師とFGMについて話したときに、今は多くの先進国のNGOなどが介入し、数はかなり減っていること、おそらく10数年後にはいなくなるだろうことを教えて頂いた。
実際にFGMはいる、想像以上に壮絶だ。出会ったときの衝撃は、ずっと色褪せない。
ここまで侵襲が大きくなくとも、世界各国に昔からある偏見は沢山あるとおもう。それをしないと嫁に行けない、おとなの女性として認められない。立派な男性として認められない。etc...その儀式で、苦しむ人がいるのなら、小さなものでも無くして行けるようにしていかなくてはならない。自分達の代でみんなやっていたからと、次の世代を締め付けてはいけない。避けられることでトラウマなんて作ってはいけないだろう。

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