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労働判例を読む#533

※ 元司法試験考査委員(労働法)

【三井住友トラスト・アセットマネジメント事件】(東京高判R4.3.2労判1294.61)

 この事案は、一度雇止めされたが、訴訟によって雇止めを無効とされて復職し、その後も専門職として勤務してきた従業員Xが、未払残業代の支払いを会社Yに対して請求した事案です。
 1審は、請求の一部を認めました。2審は、1審よりもさらに広く、請求の一部を認めました。

1.管理監督者性
 1審で、Xの管理監督者性が否定されたため、2審で、Yは、部下のいないスタッフ管理職者について、経営との一体性を問題にすべきではない、という趣旨の主張をしました。部下がいないのだから、経営と一体になって経営に関わることを、管理監督者の判断枠組みとすべきではない、ということのようです。
 けれども2審は、1審と同様、経営との一体性も判断枠組みになると判断しました。そのうえで、1審と同様にXの管理監督者性を認めました。
 近時、判断枠組みは事案に応じて柔軟に設定される傾向があり、その観点から見れば、部下のいないスタッフ管理職の場合には、それに適した判断枠組みを柔軟に設定しても良さそうに思われますが、2審はそのような判断をしませんでした。スタッフ管理職の場合に管理監督者と認められる場面が極めて限定的になってしまうようにも思われますが、今後、どのような判断枠組みでどのように判断されていくのか、注目されるポイントです。

2.早出残業
 労働時間性に関し、1審は、居残残業については労働時間と判断しつつ、早出残業については労働時間ではないと判断しました。
 けれども2審は、早出残業残業についても、労働時間と判断しました。ここでは、マーケット情報の収集や、所定の事前チェック業務について、業務に関係するうえに、早朝の出社を咎めることもなかった点などを主な根拠に、指揮命令下にあり、労働時間である、と認定しました。
 実際にXが担っていた業務の負荷や業務密度は、非常に低かったようですが、その点はあまり重視されずに労働時間性が認定されています。何か仕事に関わる口実があれば労働時間と認定されてしまう懸念があり、実際には逆に、早出残業の労働時間性を否定する裁判例が多く認められるなか、この2審判決のように労働時間の認定を広く認めることになっていくのか、注目されます。

3.実務上のポイント
 Yとしては、一度雇止めしたXが、高い給与を得ながら、情報収集や情報提供などのかなり負荷の小さい、しかも収益に直接貢献しない業務を担当しており、さらに残業代の支払いまで求めてきたのですから、かなり不満を抱いたように思われます(だからこそ、1審の判断に対して控訴したのでしょう)。
 Xの入社が8月(年度途中)であり、年俸が約1200万円と高額であり、更新拒絶が問題となる有期契約であったことから、何か専門性が期待されて中途採用された者であるように思われますが、Yの業務が合わなかったのか、収益に直接貢献しない業務が与えられていました。
 中途採用者に関するトラブルは、労働判例の中にも比較的多く見かけますが、その対応として参考になる事案です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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