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労働判例を読む#596

今日の労働判例
【広島県・県労委(特定非営利活動法人エス・アイ・エヌ)事件】(広島高判R5.11.17労判1309.69)

 この事案は、労働組合Kの組合員・従業員ABを会社Xが解雇したことが、労働委員会Yによって不当労働行為と認定し、救済命令を発したため、この救済命令の取り消しを求めて訴訟を提起した事案です。
 一審二審、いずれも、Xの請求を認めました。

1.判断枠組み
 特徴的なのは、通勤手当を不正受給していたAの解雇の合理性に関する判断です。
 すなわち、①不当労働行為が成立するためには「反組合的な意思又は動機」が必要である、という前提を確認したうえで、②「解雇が合理性や相当性を欠くことが明らかな場合」(この場合には、反組合的な意思又は動機が推認される)、①直接、「反組合的な意思又は動機」がある場合、に該当するかどうかを検討しています。
 ②は、一種の立証責任の転換ですが、①の代わりに②だけが立証方法になるのではなく、本来の①も立証方法になります(つまり、①→②、となるのではなく、①→①+②になり、立証方法の選択肢が広がることになります)。本判決での立証責任の転換は、Yにとって有利に適用されるものであり、Xの側が②だけでなく①についても、自らの主張を認めてもらわなければなりません。実際、裁判所は②と①両方について、Xの主張を認めることによって、Xの請求を認めました。
 つまり、Yにとって有利な立証責任の転換があったために、Xの主張が認められるためのハードルが高くなったのですが、それでもXの主張が認められたのです。

2.実務上のポイント
 ②については、Aの解雇が合理的・相当である、というレベルではなく、それより下の、「解雇が合理性や相当性を欠くことが明らかな場合」というレベルに設定されていますが、実際には、解雇の合理性・相当性がかなり慎重に検討されています。Xから見た場合、実際にはハードルが上がっている、と言えるでしょう。
 他方、①については、ABの組合活動を歓迎していない様子が認定されたものの、それでも違法なレベルではない、という判断をしており、Xから見た場合、実際にはハードルが下がっている、と言えるかもしれません。
 単に組合活動を歓迎していないだけでなく、そこにABの不正行為などが絡んできた事案であって、複雑な判断が必要となる事案だからこそですが、複数の要因を考慮すべき事案でどのように検討されるのかをか考える際、参考になるでしょう。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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