労働判例を読む#421
【システムメンテナンス事件】
(札幌高判R4.2.25労判1267.36)
※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK
この事案は、機械式駐車場のメンテナンスを行う会社Yの従業員Xが、始業時間前と終業時間後のそれぞれについて、実際は業務を行っていたとして、未払賃金の支払いなどを求めた事案です。
二審は、一審よりも労働時間を広く認め、Yに対してより多額の支払いを命じました。
1.終業時間後
就業時間後は、当番とされた日に関し、顧客から呼び出されたらすぐに対応できるように携帯を持たされて、翌朝まで待機していました。この待機時間について、待機場所は特に指定されておらず(帰宅も可能)、但しすぐに対応できるように飲酒は禁じられていました。この待機時間について、残業代は支払われていませんでしたが、当番日ごとに定額の手当てが支払われていたほか、実際に顧客の要請に応じて対応した場合には、移動時間を含む実働時間について残業代(割増賃金)を支払っていました。
一審は、待機時間全てについて、労働時間に該当しないとしました。
これに対して二審は、同じ待機時間であっても、事務所に残って待機していた日がいくつかあり(平均すると7時半まで)、事務所で待機していたことをYも認識しており、Xは労働から解放されておらず、指揮命令下にあった、として労働時間に該当すると評価しました。
待機場所を自主的に職場にしていただけ、と見れば、1審のように他の場所での待機と区別する理由がありませんが、事務所にわざわざ待機していたのは、呼び出しを受ける可能性が高い事情があったのでしょうか。あるいは、そのような事情が無くても、自宅でゆったりと過ごす場合に比較すれば、職場で待機している場合には本当にくつろぐことができない、という違いが重視されたのでしょうか。手掛かりは、Yも職場での待機を認識していた、という点にあります。
夜の待機時間の全てを労働時間と評価するのでも、逆に全てを否定するのでもない結論のために、職場で待機したかそれ以外の場所で待機したかの違いに着目するのは、1つの妥協的な判断方法ではありますが、待機場所を従業員が自由に決められる前提の中で、本当に合理性のある基準と言えるのか、今後議論されるべきポイントでしょう。
例えば、コロナ禍で在宅勤務が広がる中、勤務時間も待機時間もいずれも自宅などで過ごす場合には、職場にいたかどうか、という基準が適用される場面が考えられなくなってしまいますし、スマホなどでかなり高度な業務について対応が求められる待機時間の場合には、労働から解放されたと評価できるのかどうか、より微妙な状況になり得まるからです。
2.実務上のポイント
なお、勤務時間以前の「早出残業」についても、労働時間かどうかが争われました。
一般に、始業時間以前の「早出残業」は、始業時間後に比較すると、仮にメールの整理など、仕事に関わる作業を行っていたとしても、指揮命令されたわけでも拘束されているわけでもなく、労働時間に該当しないと評価されます。
けれども本事案では、「早出残業」のうちでも、実際にメンテナンスに出かけるための資材の積み込みなどの作業が行われていたとして、(Xの主張はもっと早い時間ですが)平均すれば8時半から仕事をしていた、と認定されました。
早出残業であっても、実際に仕事をしていれば、労働時間と認定されることがあり、この裁判例もそのような例の1つとなります。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!
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