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労働判例を読む#541

※ 元司法試験考査委員(労働法)


【国・中労委(ファミリーマート)事件】(東京地判R5.5.25労判1296.5)


 この事案は、コンビニエンスストアを統括・運営する会社Fと契約し、コンビニエンスストアを法人・個人として経営する者(や役員)達が労働組合Xを結成し、団体交渉をYに申し入れたところYがこれを拒絶した事案です。
 XはYの交渉拒絶が不当労働行為に該当する、と主張して都労委に救済申し立てをしたところ、都労委はこれを認めましたが、逆に中労委Yは、Xの組合員達は労組法上の労働者ではないとして、これを否定しました。当裁判所も、中労委Yの判断を支持しました。

1.判断枠組み
 ここでは、労組法上の労働者性に関する4つの最高裁判決を分析整理した研究結果(「労使関係法研究会報告書(労働組合法上の労働者性の判断基準について)」H23.7労使関係法研究会)で示された判断枠組みを、そのまま採用しています。すなわち、以下の6つの判断枠組みで本事案を整理し、労働者性を判断しています。
① 事業組織への組入れ
② 契約内容の一方的・定型的決定
③ 報酬の労務対価性
④ 業務の依頼に応ずべき関係ないし諾否の自由
⑤ 広い意味での指揮監督関係、時間的場所的拘束
⑥ 顕著な事業者性
 特に注目されるのは、⑥です。
 というのも、労働者性(労組法上の労働者性に限りません)の判断に関し、指揮監督などの「強制」される側面だけを問題とする判断方法(絶対的な評価)と、労働者としての側面と(事案によって何を対比させるかが異なりますが)対立する形態(ここでは事業者ですが、役員だったり、家事使用人だったりします)としての側面といずれが大きいかを問題とする判断方法(相対的な評価)があるからです。
 絶対的な評価の場合には、上記①~⑤に相当する事情だけを考慮することになりますが、それでは、労働者の範囲が広がりすぎることが懸念されます。例えば、個人の事業として荷物の配達を行っている者が、発注事業者から配送時の制服や帽子、配送車に貼るステッカーなどを指定されることがありますが、同じような対応を、法人である配送業者が求められる場合もあるでしょう。しかし、発注事業者の取引先としての契約上の義務として、制服・帽子・ステッカーが義務付けられることも、依頼者の指揮命令と同様の「強制」と評価することが可能であり、絶対的な評価をすると、このような契約上の義務も積み重ねていけば、労働者と評価できるだけの「強制」がある、と判断される可能性があるのです。
 けれども、相対的な評価の場合には、法人の配送業者と同様の「強制」であれば、制服・帽子・ステッカーの義務付けはむしろ事業者性を基礎づけるものと評価されるべきであり、労働者の範囲が広がりすぎる危険を回避できます。
 この意味で、⑥を設定することで相対的な判断であることを明確にしている点が、重要なポイントとなるのです。

2.総合判断
 次に、これら事情の判断方法です。
 ①~⑥について、全てが肯定的に評価されなければ労働者性が否定されたり、逆に全てが否定的に評価されなければ労働者性が肯定されたりする、というような、言わば「要件」「条件」のような意味を有するのではない、という点です。全ての要素が同じ方向で評価されなくても、最終的には、総合判断によって判断されます。
 実際、本判決では②だけ肯定的(労働者性を認めるべき方向)に評価されました。すなわち、Fが一方的に契約内容を決している、と評価しました。
 けれども、他の要素が否定的であり、最終的には労働者性が否定されたのです。
 さらに、このような総合判断は、①~⑥それぞれの要素ごとの検討の中でも、行われています。
 例えば①です。
 ①については、これを肯定すべき事情と、否定すべき事情の両方を認定したうえで、最終的に総合判断を行って否定的な評価をしています。すなわち、以下のように整理されています。
❶ 肯定的な事情
 まず、個人加盟者による経営・店長による管理運営が不可欠とされており、かつ、個人加盟者・法人代表者が自ら店長となって直接管理運営を、しかも長時間勤務で行う場合がある、とされました。
 また、個人加盟者・法人代表者が店長になっている場合、対第三者の外観・専属性について、Fの事業組織の一部と評価できる部分もある(店舗仕様、ユニフォーム、バッチ等)、とされました。
❷ 否定的な事情
 (❶の1段落に対比される事情として)まず、個人加盟者・法人代表者が自ら店長になることは必須ではなく、個人加盟者・法人代表者の労働力を確保する目的の契約ではない、とされました。
 (同2段落に対比される事情として)また、店長の就業時間・業務内容は店長自身が決定しており、Fが個人加盟者・法人代表者の労働力を管理する権限・実体がない、とされました。
 この❶❷を踏まえ、最終的に①が否定されたのです。

3.各判断枠組みの検討状況
 さらに、残りの③~⑥について検討しましょう。
 まず③です。
 ここでは、❶(形式面)契約上、報酬を支払う約束がないこと、❷(実質面)加盟者に支給される金銭の種類ごとにその性質を詳細に検証して評価していますが、個人加盟者・法人代表者の業務関与の状況・業務量・就業時間によって算出されるものではないこと、を根拠にしています。
 形式面と実質面から検討していること、実質面では、支給される金銭の計算方法などが重視されていること、が参考になります。
 次に④です。
 ここでは、❶(前提として)「個々の業務の依頼に対し、基本的に応ずべき関係にあるといえるかを検討することになる」と、評価基準を示しました。マーク(ロゴ)、定められた経営手法、本部からの経営支援などに従わないとしても、ここでの「義務付け」「個々の業務の依頼に応ずべき義務」に該当しないとされました。❷(形式面)契約上、経営全般を担うことになっており、それに伴う各種の義務がある(研修受講義務、年中無休・24時間営業義務、本部フィーの支払義務など)が、これらは契約上の義務で、「業務の依頼に応ずべき義務」はないとしました。❸(実質面)たしかに、店舗指導の内容に従わなければならず、契約更新の際にも、協調性などが考慮されるとしても、指導は経営者の業務改善の機会を与えるもので、従う義務や、協調性を示すために従う必要はない、実際に再契約拒否された事案も、数が限られているうえに、その理由も、指導に従わなかった面よりも、売上高の長期低迷と改善の見込みのないことが理由だった、としました。
 ここでも形式面と実質面から検討している、と整理できるでしょう。さらに、ここでの検討内容は⑥と関連します。「個々の業務の依頼に応ずべき義務」は、労働契約上の義務(会社の人事権に対応する義務)であるのに対し、加盟店経営者・法人としての義務は、運営会社Fと独立した事業者との間のビジネス上の契約に基づく義務であり、❶~❸は、前者ではなく後者であることを検証している、と評価できるからです。
 次に⑤です。
 ここでは、指揮命令と、時間的場所的拘束に分けて検討されています。まず、指揮命令です。
 最初に、❶(肯定的事情)指揮命令に関し、マニュアル、計画作成指示、巡回、覆面調査、商品推奨、研修などの「指導」があったことを指摘しています。しかし、❷(否定的事情)この❶は契約上、加盟者に義務付けられておらず(形式面)、実際、加盟者が指導に従わない場合があり(商品の発注、従業員配置、転倒サービス導入)、指導に従わないと不利益を受ける関係になかった(実質面)、と指摘しています。
 次に、❸(肯定的事情)場所的拘束はあったとしつつ、❹(否定的事情)時間的拘束に関し、①での検討結果を引用し、時間的拘束はなかった、としました。
 この⑤では、結果的に指揮命令と時間的場所的拘束がなかった、としていますが、いずれも、積極的な事情と消極的事情の両方を比較衡量しているところから、厳密にオールオアナッシングで割り切れる判断ではなく、相対的に消極的事情の方が大きかった、という判断だった、と評価できます。
 次に⑥です。
 ❶営業の損益が加盟者に帰属する(これは、❷の前提になる、と位置付けられています)としました。このために、取引の負担、損失補填ルールの内容、費用負担、資金調達、の実態が検討されています。次に、❷自己の才覚で利得する機会がある、としました。このために、立地選択、営業日時決定、商品決定、従業員雇用決定、Fとの契約形態の変更、等で加盟者に機会が与えられていることが検討されています。さらに、❸特に従業員雇用に関し、加盟者が自ら決定している、としました。
 そして、この❶~❸によって、加盟者に機会とリスクが帰属し、「顕著な事業者性」がある、と判断しました。
 以上の、①~⑥の検討を通して、②が肯定的であっても、労働者に該当しないと判断しました。
 ②と①・③~⑥の対比もそうですが、①と⑤の内部でも、肯定的事情と否定的事情が比較考量されており、労働者性の有無の判断は、あるかないかの二者択一ではなく、比較考量の問題であることがわかります。

4.実務上のポイント
 そうすると、何と何を比較しているのか、ということですが、本事案では、労働者性と事業者性の比較です。これは、⑥の事情を独立した判断枠組みとしていることからわかりますが、例えば④の❸は、事業者性を基礎づける事情と見ることもできます。
 このように、労働者性の判断は、労働者性と事業者性の対比による相対的な判断であることがわかります。
 したがって、これが例えば、会社の役員という肩書があるのに労働者であるかどうかを検討する際には、労働者性と役員性が対比されることになるなど、対比されるべきサービス提供形態に応じて、判断枠組みが修正されるべきことが理解できます。
 このような相対的な判断方法に対し、労働者性は絶対的な方法で判断する、と見られる場合もあります。それは、相手方からの指示や要望に従わなければならない「強制の契機」がどれだけあるのか、という積み上げの程度によって判断する、という判断方法です。これによれば、例えばロゴの使用や制服の使用なども強制される事情なので、労働者性を肯定すべき事情と評価されることになります。上記①❶でも、これらの事情を肯定的な事情と評価しています。
 しかし、もし絶対的な方法で判断することになると、上記の判断の中でも、②や①⑤のうちの肯定的な事情は考慮されるものの、それ以外の否定的な事情が全く考慮されないことになります。そうすると、肯定的な事情だけが残され、労働者性が肯定されるという逆の結果になったかもしれません。もしそうなれば、個人事業者が労働者と評価される場合が非常に多くなってしまうでしょう。
 このように、諸事情を総合的に判断すべきこと、その前提としてオールオアナッシングの二者択一のような問題ではなく、また、労働者性だけの絶対評価でもない(対立する概念との相対評価である)、ということがわかります。総合評価である点は、ときどき指摘されるところですが、前提となる部分も重要なポイントです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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