経営組織論と『経営の技法』#272
CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ③依存度の低下
もう1つの戦略は、特定の資源への依存度を下げることです。たとえば、パン屋さんであれば、パンしか作っていない限り、小麦粉への依存度は高いものになり、小麦粉を供給する業者に対する依存度も高くなりがちです。もし、特定の小麦粉を使用しない商品(たとえば惣菜)や別の小麦粉を使った商品を作るようにすれば、特定の小麦粉への依存度は小さくなり、それを取り扱う業者への依存度も下がっていくことになります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』250~251頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
上記本文のように、資源の依存度を下げる場合には、お惣菜や違う小麦粉を使ったパンを開発し、定番商品として定着するように営業活動をしなければならず、さらに、そこまでしても定番商品として定着する保証はありません。すなわち、これだけの時間や手間、コストをかけてでも2つ目、3つ目の柱を模索するのは、資源の依存度だけの問題ではなく、主力商品を複数化することで売行きのムラのリスクを分散することにも目的があります。主力商品1本だけ、というビジネスモデルは、その商品の人気が直接業績に反映されてしまうため、業績が不安定になってしまうからです。
そうすると、複数の柱を作る場合に、①違う種類のパンのように、従前の製造ラインやノウハウを丸々活用できる場合、②お惣菜のように、ある程度活用できる場合、さらにパン作りと全く関係のない事業のように、③全く活用できない場合など、様々な態様が考えられます。この3種類に限定して考えると、①は組織的に見ても大きなコストが発生しませんが、リスク分散の効果は薄く(所詮、同じパン)、③は大きなコストが発生しますが、もしうまくいけばリスク分散の効果は大きくなります。②は、その中間です。
このように、事業の多角化は、会社組織としてみると、組織として受け入れるためにどのような人員の手当や組織体制・プロセスが必要になるのか、ということを考慮しながら実現可能な戦略が模索されることになります。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
このように見ると、多角化して資源の依存度を高める戦略も、それをしない戦略も、いずれも一長一短であることが分かります。
投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、そのような状況で責任を持って決断し、その決断に基づいて組織を実際にまとめ上げ、動かせる盲力が必要であることが理解できます。
3.おわりに
他社に依存せず、他社に主導権を取られず、自社の自由を獲得したい、という欲求は、会社経営者として自然でしょう。その自然な欲求を手掛かりに経営上の問題点を分析することで、資源の依存度というキーワードが浮かび上がり、経営に関する様々な問題の関連性が見えてきました。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。