経営組織論と『経営の技法』#231
CHAPTER 9.4:新しいキャリア ④組織の意味
このような バウンダリレス・キャリアの価値観に基づいてキャリアを歩んでいる人にとって、組織は自分自身の活動を制限するものにはなりません。そこは資源が集まる場であり、その場におけるプロジェクトをベースに仕事をこなし、キャリアを歩んでいくことになります。
たとえば、俳優は映画やテレビドラマ、舞台の演目ごとにキャスティングされ、それが終われば、また別の 映画やドラマで仕事をしていきます。その中で、名脇役やお母さん役といったように、自分のアイデンティティを持ちながら、作品を渡り歩いてキャリアを発展させていきます。人によっては、俳優から政治家といったように、芸能界という枠を超えてキャリアを歩む人もいます。
このような人々にとって組織は、従来の経営組織に属してキャリアを歩む人々の組織とは全く異なります。たとえば、このようなキャリア観を持つ人に、昇進や昇給のようなインセンティブはあまり意味をなしません。組織の力をより大きくするためには、このような長期的なキャリアの考え方についても考慮に入れたうえで活動をする必要があります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』217~218頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
ここまで、会社組織外でキャリアを積んできた人たちと、会社組織内でキャリアを積んできた人たちの違いを検討してきました。特に、前々回(#229)では人脈の問題、前回(#230)では独立性の問題を中心に検討しました。
今回は、会社組織の、各自にとっての位置づけがテーマです。
すなわち、会社組織の外でキャリアを積んできた人たちにとって見ると、会社組織には、情報や人材、アイディアなど、1人では簡単に築けないリソースが沢山集積しています。
特に、起業家精神が旺盛な人の場合には、このリソースがあれば、こんなことやこんなことができる、とワクワクすることでしょう。会社組織から見た場合、このような人材を採用するということは、宝の持ち腐れとなっているような会社のリソースを活用する、きっかけになることが期待できるのです。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
もちろん、株主から経営を託された経営者が、会社組織の有するリソースを活用すべきです。会社組織をツールにして、「適切に」「儲ける」ことがミッションだからです。
けれども、必ずしも経営者が会社組織の全てを完璧に掌握できるとは限りません。しかも、生かされていない宝を掘り出すことは、当たり前と感じてしまう会社組織内の人よりも、外の人の方が適している面があります。
そこで、たとえば経営コンサルタントのような人たちを雇って、宝探しをする場合もあります。
けれども、会社組織の中に入り込んで、一緒に仕事をしてもらいながら宝探しをしてもらう方が、じっくりと腰を落ち着けて取り組んでもらえます。しかも、分析するだけでなく、実際に仕事の中で実験したり、その感想や問題点などを同僚の従業員から聞いたりできますので、提案の精度もより高くなるでしょう。
経営者としては、このような「会社組織の眼」を経営のツールとして活用すべき場合もあるのです。
3.おわりに
会社組織の外でキャリアを積んできた人たちも、中途で採用する会社が増えてきました。そこでは、これまで検討したような特徴が理解され、考慮されているように思われます。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。