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経営の技法 #39

5-1 儲かる仕事ほど危ない
 ビジネスそのものは、「自由」競争であり、特に規制が問題にならない限りビジネスの「自由」だから、リスク管理は不要、事後的なチェックで十分、という認識は誤りである。儲かる仕事ほど危ないからである。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、業法などの規制のかからない事業分野は、監督官庁がいないことから、規制違反によるペナルティーや、最悪の場合事業免許剥奪などの危険がなく、安全と誤解されることもあるが、実際はそうではない、と説明しています。
 第2に、自由競争の領域こそ、チャレンジするために適切なリスク管理が重要、と説明しています。
 第3に、経営学を踏まえ、競争するからには、競争相手からの反撃も想定した戦略が必要であり、その代表例が「ブランド作戦」「ファン獲得作戦」である、と説明しています。
 第4に、反撃への対策として、参入障壁も検討しています。特に問題なのは、非競争的な参入障壁であり、これは独占禁止法などの規制に反する危険がある、と説明しています。
 第5に、経済学が理想とする自由競争は、経営者にとってむしろ最も好ましくない結果をもたらします。すなわち、完全な自由競争が成立すると、商品やサービスの価格が下がり、会社の得られる利益が無くなるからです。このことから、経営者には構造的生来的に反自由競争的な動機がある、というのが経営学から見た経営者であり、自由競争のルールに違反する強い動機があることから、非競争的で危険な戦略を選択する危険が常にある、と説明しています。

2.経済学と経営学
 本書のゲラを、『ゼミナール経営学入門』の共著者の一人、神戸大学の加護野忠男先生に、直接本書に対して意見を聞かせていただく機会がありました。
 その中で、私の方から、ここで私が指摘した内容、すなわち経済学と経営学の相性が悪い、という件が興味深かった、と話しました。
 この点は、経営学者である加護野先生にとっても興味深い点だった様子で、話が弾んだ点です。
 私の理解では、経済学は抽象化した命題の正当性を検証するため演繹的な手法が中心となるのに対し、経営学は逆に経営のエッセンスを事例の中から見つけようとするもので、帰納的な手法が中心となる、どうだろうか、と質問しました。
 加護野先生は、「そう、だから経済学は理屈っぽくて役に立たないけど、経営学は具体的で役に立つ話がいっぱいあるんだ。」と、本気か冗談か分からない話をしてくれました。

3.おわりに
 加護野先生は、私に、「本当の経営学が研究されているのは、神戸大学と一橋大学であって、旧帝大ではないのだが、なぜだかわかりますか?」と質問しました。
 私が、分からない、と答えると、「旧帝大の経営学科は全部経済学部の中にある。神戸大学と一橋大学が、経営のための大学として建学され、経営学部が経済学部の下にないんだ。」
 どうやら、経営学にも学派や流派のような違いがあるようです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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