経営組織論と『経営の技法』#233
CHAPTER 9.4 Column:プロティアン・キャリア ②2つの能力
このプロティアン・キャリアにおいて重要になる能力が、アダプタビリティとアイデンティティです。アダプタビリティは、変化する環境に対して学び、適応する意欲と能力を意味し、アイデンティティは自身の欲求や動機、能力、価値、関心などの明確な自己イメージ、自己認識があることを指します。プロティアン・キャリアではこの両者があることが大事だと考えます。
たとえば、アダプタビリティだけがある場合、変化する状況には、その都度うまく対応できるかもしれませんが、それではカメレオンのように変化に対応するだけで、良きキャリアを歩めなくなってしまいます。
一方、アイデンティティだけがあっても、変化に対して麻痺的·防御的になり、自己イメージを守るために回避的な行動をとりがちになってしまいます。変わりゆく環境の中で、柔軟に振る舞いながら自分のキャリアを確立するには、アダプタピリティとアイデンティティの両方が必要となるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』218~219頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
ここでは、自分でキャリアを描くために必要な能力が、2つに整理されています。
特に注目されるのは、アダプタビリティです。様々な場面で、能力というと、他人に認めてもらうためのアピールの面が強かったように思いますが、ここでは、自分が他人に合わせていくという要素も含まれています。より、組織の中に入り込んでいったり、他人と強調したりするような、チームプレー的な要素が示されているように思われます。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
自分自身をしっかりと確立していながら、周囲に合わせることもできるというのは、とっても立派な大人、という感じです。この両者が、高いレベルで備わっているのであれば、経営者としても必要な人間的な素養としては、十分と言えそうです。すなわち、会社組織をツールに市場での競争に勝ち続けるのが、経営者の使命ですが、そのうちの会社組織をリードしたり、会社組織を強くしたりすることが、このような人間的素養によって上手にできることが期待されるのです。
けれども、経営者には市場での競争に勝つ、という勝負師としての面も必要となります。
ここで示された2つの能力は、会社組織の中に入ったり、仲間とチームを組んだりするのに有効ですが、リーダーとしての資質については、この2つの能力に加えて、何か他に欲しいところです。
3.おわりに
アイデンティティがありながら柔軟、というのは、いわゆる「老舗学」の研究成果として、創業100年を超える企業が事業継続しているコツとして指摘されるポイントの1つです。
翻って、生身の人間も、いつも全力疾走し続けるわけにはいきませんから、持続的にキャリアを積む場合には、老舗と同じような素養が必要なのでしょう。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。