労働判例を読む#620
今日の労働判例
【ネクスコン・ジャパン事件】(大阪地判R 3.3.12労判1313.98、棄却、控訴)
この事案は、経営管理部長Xが、未払賃金(特に、未払残業代)の支払いなどを会社Yに対して求めた事案で、裁判所はXの請求を否定しました。
1.管理監督者該当性
会社は、Xが管理監督者(労基法41条1項2号)であったとして、残業代を支払っていませんでした。
ここで、特に注目されるのは、判断枠組みです。裁判所は、以下の3つの判断枠組みで議論を整理し、総合判断の結果、管理監督者該当性を肯定しました。
① 職務内容・権限及び責任の重要性
ここで裁判所は、Xの上位者は役員しかおらず、部長は2名しかいなかったこと、Xは役員会に出席して報告・意見していること、株主総会決議が必要な重要な新規事業の立案遂行をしていること、リストラ・人員削減を主導したこと、を主な理由に(もちろん、いずれも詳細に検討しています)、これらの重要性を認めました。
② 労働時間に関する裁量
部下に仕事を任せて早く帰り、自分は翌日早朝にそれをチェックするなどしていたこと、労働時間管理に関する各種手続きなどは、裁量を否定する理由にならないこと、を主な理由に、裁量を認めました。
③ 待遇
代表者と同程度の収入があったこと、などから、高待遇であると認めました。
そのうえで裁判所は、「以上を総合考慮する」として、管理監督者性を肯定したのです。
管理監督者性については、特に「経営との一体性」という判断枠組みを重視する裁判例が多く見かけられますが、本事案も、言葉こそ違うものの、「経営との一体性」を重視していると評価できるでしょう。①が②③よりも特に詳細に検討されているうえに、実際、役員と同程度のレベルにあったからです。
2.実務上のポイント
管理監督者性について、近時、判断が厳しい傾向にあるように思われますが、その中にあっても、本事案のように実質的に役員と同程度のレベルであれば、管理監督者性が認められることは当然でしょうから(そうでなければ、労基法41条1項2号の意味がなくなってしまいます)、裁判所の示した評価方法に問題はないでしょう。
しかし、管理監督者性が認められるための下限は示されていませんので、管理監督者性が認められる場合とそうでない場合との境界線にあるような事案の場合には、今後も、裁判例の動向が注目されます。
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