労働判例を読む#236
【日本郵便(非正規格差)事件】最一小判R2.10.15労判1229.67
(2021.3.11初掲載)
この事案❸(以下、「大阪事件」と言います)は、日本郵便Yの期間雇用社員(有期契約社員)Xが、外務業務手当、郵便外務業務精通手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、扶養手当、夏期冬期休暇、病気休暇、について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。
最終的に最高裁が判断を示したのは、❶佐賀事件や❷東京事件と同じ夏期冬期特別休暇、❷東京事件と同じ年末年始勤務手当のほか、祝日給(但し、年始期間の祝日給のみ)と扶養手当の差ですが、全てについて合理性を否定しました。ここでは、❶佐賀事件や❷東京事件との違いを中心に、検討します。旧労契法20条に関する用語の略称(「職務の内容」「変更の範囲」「職務の内容等」「制度の性質・目的」「合理性」「均等」「均衡」)は❶佐賀事件#234と同じですので、そちらもご確認ください。
1.①制度の性質・目的
まず、年始期間の祝日給や扶養手当の性質・目的の認定です(それ以外は、❶佐賀事件や❷東京事件と同様なので、検討しません)。ここでも、❶佐賀事件と同様、Yの立てた性質・目的そのものではなく、実際の制度の内容から認定しています。
具体的に年始期間の祝日給については、年始期間の特別休暇と合わせて検討されています。すなわち、まず年始期間の特別休暇は、「多くの労働者にとって年始期間が休日とされているという慣行に沿った休暇」と認定し、次に年始期間の祝日給は、特別休暇が最繁忙期であるために取れなかった場合の代償と認定し、年始期間の祝日給は特別休暇の相違を反映している、と評価しました(労判1229.73右下~74左上)。
また扶養手当については、長期継続勤務が期待される正社員に与えられる制度となっていることから、長期にわたり継続して勤務することが期待される社員の生活保障を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることで、その継続的な雇用を確保する目的、と認定しています。さらに裁判所は、このような目的も経営判断として尊重し得ると評価しています(同右2)
2.②合理性
次に、この性質・目的に照らして合理的かどうかが検討されています。ここでも、❶佐賀事件や❷東京事件と同様、「均衡」ルールが適用されています。
具体的に年始期間の祝日給については、Xは繁忙期に限定されておらず、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているとして、最繁忙期の労働力確保のために年始期間の特別休暇を付与しないことは合理的でも、年始期間の勤務の代償である祝日給を支給しないことは不合理と評価しています。結果的に、有期契約社員の方が支給される祝日給の日数が小さくなります(特別休暇がないから)が、全く支給されないよりはまし、ということでしょう。
また扶養手当については、扶養親族があり、有期契約が更新されてきたXには継続的な勤務が見込まれるので、不合理と評価しています。
3.実務上のポイント
2審では、年末年始勤務手当、祝日給、夏期冬期休暇について、その全てではなく継続勤務期間が5年を超える場合についてだけ無効、という判断を示しましたが、最高裁はこのような限定を付さずに一律無効と判断しているようです。
一定程度継続勤務されたことが不合理性の根拠となることについて、これらの手当・処遇(年末年始勤務手当、祝日給、夏期冬期休暇)に当てはまらないことが示されたと言えますが、その他の場合にも一律無効となるのかどうかについては、必ずしも明確ではありません。というのも、扶養手当について、この事案でのXの場合には、継続的な勤務が見込まれていることを認定し、前提条件にしているようにも見えるからです。
今後、有期契約社員の中でも、その勤務実態に応じて旧労契法20条の判断が異なる場合があるのかどうか、注目されます。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!