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労働判例を読む#507

※ 司法試験考査委員(労働法)

【大陽液送事件】(大阪地堺支判R4.7.12労判1287.62)

 この事案は、運送トラックの運転手Xらが、勤務する会社Bに運送業務を依頼している発注会社Yに対し、直接、雇用関係にあることの確認等を求めた事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.派遣法40条の6
 ここでXらが、なぜ、直接の雇用主であるBを飛び越えて、Yとの間の雇用契約を主張できるのか、という点ですが、これは、派遣法40条の6の1項5号を根拠にします。
 これは、実態は派遣であるのに、派遣でないように偽装したような場合、例えば請負契約や業務委託契約の形式を整えたが、実態は派遣である場合に、一種の民事制裁として、派遣先との間に直接雇用関係を発生させる権利を、当該労働者に与える、という制度です。
 この制度の非常に独特な点は、実態と形式がズレている場合に、実態に合致した法律関係(派遣関係)を作り出すのではなく、それを飛び越えて、直接の雇用関係を作り出す点にあります。労働法は、実態と形式がズレている場合に、実態に合致した法律関係を作り出すことがよくあります(例えば、更新の期待がある場合に、有期契約のように自由に更新拒絶できるのではなく、無期契約のように合理的な場合に限定される、という更新拒絶のルール(労契法19条)など)が、この派遣法40条の6の1項5号は、実態に合致しない法律関係(直接雇用関係)を作り出してしまうのです。
 このルールが適用されるために特に重要なポイントは、実態が派遣関係かどうか、という点にあります。その他にも、派遣を受けているとされる会社が、派遣法を潜脱する脱法目的を有していたか、という点も問題になりますが、本判決では、実態が派遣法ではない、という判断を裁判所が行ったために、脱法目的を議論する必要が無くなり、裁判所も判断を示していません。

2.判断枠組み
 この実態が派遣関係かどうか、という点は、この用語だけを見ると非常に幅の広い抽象的な概念であるため、いくつかの判断枠組みに整理して評価されます。実際本判決は、派遣と請負の区分について定めた厚生労働省の告示、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働者告示第37号、「37号告示」)2条をそのまま適用しています。37号告示2条は、以下のように定められています。
   請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
 一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
 イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
 (1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
 (2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
 ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
 (1) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
 (2) 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
 ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
 (1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
 (2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
 二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
 イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
 ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
 ハ 次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
 (1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
 (2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
 構造がややこしいですが、裁判所は、一号のイロハと、二号のイロハの、合計6つの判断枠組みについて、本事案が該当するかどうかを検討しています。この6つの判断枠組みを理解すれば、本判決と同様に37号告示2条を使うことができるのですが、この機会に、構造を確認しておきましょう。
 同条は、2つの号からなっており、この2つの号両方に該当しなければ、請負と評価されません。すなわち、派遣法40条の6の1項5号の観点から見た場合、この両方に該当しなければ、偽装請負と評価されるのです。
 まず1号は、従業員の「直接利用」です。これは、「イ」の業務指示・指揮命令、「ロ」の労働時間指示、「ハ」のその他の管理の3つの要素で判断されます。
 次に2号は、自己の業務の「独立性」です。これは、「イ」の資金調達、「ロ」の責任主体性、「ハ」の業務の提供の3つの要素で判断されます。
 このように、従業員を自分の業務のために利用していること(1号)と、自分の業務が独立していること(2号)の両面から、検討することになります。経営の基本ツールである「人」(1号)と「カネ」(2号)、具体的取引(1号)と企業体制(2号)、等と整理できるかもしれません。いずれにしろ、幅広い観点から総合的に判断するための判断枠組みが整理されていることがわかります。

3.あてはめ
 詳細は、実際に判決文を読んでいただきたいと思いますが、特徴的な点をいくつか指摘しましょう。
 1つ目は、全ての上記各要素を検討していない点です。
 たしかに、上記の条文を見ると、「いずれにも該当すること」という表現が随所で用いられており、文字通り解釈すれば、対象となる要素を全て満たさなければならないはずです。具体的には、一号全体と二号全体について、それぞれのイ~ハ全てが満たされなければならず、さらに、一号のイ~ハいずれも、それぞれの(1)(2)両方が満たされなければなりません。なお、二号のハだけは、(1)(2)のいずれかに該当すればよい、という表現になっています。
 けれども、一号のロとハについては、(1)(2)に分けて検討せず、一括してその本文該当性が直接議論されています。例えば、二号のロに関しては、残業や休日出勤が問題にされておらず、残業や休日出勤に関するBの権限や実際の関与が議論の対象となっていないこと、二号のハに関しては、配置転換などが問題にされておらず、配置転換などに関するBの権限や実際の関与が議論の対象となっていないこと、が本事案の特徴です。それにもかかわらずこれらが満たされているかどうかを問題にし、しかもこれが満たされなければ偽装請負と評価されてしまうことになれば、Bは、偽装請負と評価されないための対応を講じる機会が無くなってしまいます(残業や配置転換が実際の業務で必要ではないのに、そのような権限や実績を残さなければならなくなる)。
 このことから、一般的な判断枠組みを、事案の実態に合わせて修正させている点が、1つ目の特徴です。
 2つ目は、判断の基礎となる事実の重複です。
 例えば、乗務員の配車を予め定めた「乗務割」が作成されていたことや、タイムカードなどで実際の勤務時間を把握していたことは、一号イ(1)と、一号ロの両方で、該当性を認める根拠として指摘されています。
 このことから、上記判断枠組みが想定しているように思える、非常に活動領域の幅広い会社でなく、業務の内容等が限定的なBのような会社であっても、評価方法を工夫することで、偽装請負かどうかの判断を柔軟に行い、実態に即した結論が出るように苦労している様子がうかがわれます。そして、このような評価方法は、1つ目の特徴と同様の配慮が背景にあると言えるでしょう。機械的な適用による不都合が回避されているのです。
 3つ目は、各要素のハードルの高さの柔軟性です。
 例えば、2号ハに関し、運送車両はBではなくYが保有し、しかも無償でBが使用していたことから、Bが事業に必要な機材を「自己の責任と負担で準備し」ているとは、必ずしも言い難い状況ですが、裁判所は、保険料を負担したり、高圧ガス保安法の許可を獲得したりしている点を指摘して、この要素が満たされている、と結論付けています。また、1号イに関し、(1)では、Xの担当者と配送先などについてXらが直接やり取りすることがあったとしても、この要素が満たされているとし、(2)では、実際に人事考課が行われたり、それによって給与や賞与、昇格などが決められていたりする様子などが問題にされておらず、報告書類を提出させていた、ということだけから、この要素が満たされている、としています。
 このように、各要素のハードルは、全てが低くなっている、というわけではありませんが、一部についてはハードルが低くなっている、と評価できるでしょう。

4.実務上のポイント
 表現を見ると、非常に厳格でハードルの高い37号告示2条について、裁判所は、比較的柔軟に解釈適用していることがわかります。
 行政上のルールは、紛争処理や事実認定の専門家ではない行政官に、全国統一の、ブレの少ない判断をしてもらうために作成されていますから、どうしても機械的・画一的な内容となってしまいますが、このようなシステムには、柔軟性が乏しく、実態に合わない判断も生じうる、というマイナス面があります。
 他方、訴訟は、事実認定などの専門家である裁判官が判断をするので、行政官の判断により犠牲になっていた柔軟性や実態への合致可能性を、高めることが期待されます。だからこそ、行政上のルールも柔軟にアレンジされ、適用されるのです。
 そして、ここで示された柔軟な判断は、37号告示2条の表現(表現上は、各要素が全て満たされなければならない「条件」「要件」のようにも読める)にもかかわらず、各要素は判断すべき事情を整理すべき判断枠組みであり、判断要素に過ぎず、結局はこれらの総合判断によって決定される、という判断方法に近いように思われます。すなわち、整理解雇の判断方法に関し、「整理解雇の4要件」ではなく「整理解雇の4要素」に近い考え方である、と言えるように思われます。
 少なくとも言えることは、行政上のルールが訴訟上、規範として参考にされる場合であっても、実態に応じて柔軟に解釈適用されることが、この判決によって示された、という点です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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