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労働判例を読む#374

今日の労働判例
【大和自動車王子労働組合事件】(東京地判R3.5.31労判1256.50)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、労働組合Yの構成員Xが組合を除名処分となり、それに伴って会社からも解雇された(後に、この解雇は撤回されています)事案で、XはYの除名処分が違法であるとして、損害賠償や名誉回復のための謝罪文の掲示を求めた事案です。
 裁判所は、Xの請求を概ね認めました。

1.統制権と除名処分
 本事案では、Yは、XがYを脱退して新たな組合を設立しようとしていたことを知り、それを阻止するために、他組織を作った者は除名処分となる旨の組合規程を新設し、それに基づいてXを除名しました。その他にも、YはXが執行部を批判し、新たに作ろうとしている組合の宣伝を行ったため、除名処分は統制権として有効、とも主張しています。
 このうち後者については、実際には新たな組合の宣伝を行っていないことや、Yが主張するいくつかのXの言動について、組合を脱退するとどうなるのか、いくつかの問題について質問したにすぎず、執行部を批判するものではない、と認定しています。
 さらに、除名の際、Xに十分な弁明の機会も与えられておらず、手続の合理性もないとして、除名処分を無効と評価しています。
 ここで特に注目されるのは、統制権です。
 統制権は、労働組合が一体として行動するために有するもので、組合員を除名したり処分したりできます。組合と方針が異なる者について、組合の一体的行動を害する言動を理由に処分を与え、組合の一体性を維持することも、比較的広く認められます。
 これに対し、最近の組織運営では、構成員の多様性が重視される傾向が強くなっています。執行部を批判する言動が組合の統一的な活動を阻害するものであれば、統制権の観点からは何らかの処分が可能と評価されやすくなりますが、多様性が重視される場面では逆に、執行部批判も多様性の表れですから、それが単なる統一的な活動の阻害にとどまるのであれば、処分する合理性が認められにくくなるでしょう。
 このように、統制権の本来の意味や役割と、組織の多様性の関係が以前よりも複雑になってきている状況で、本判決がどのような判断を下したのかが注目されるのです。
 この点、本判決では、上記のとおり実体面として、執行部批判等をしていない、と認定しており、そもそも統制権の問題ではないことを示していますから、統制権と多様性の問題に触れずに、これを回避している面があります。
 けれども同時に、Xに弁明の機会を与えていない点も、除名処分の不合理性の根拠としています。これは、特に多様性が重視される組織で重要なポイントですが、一体性が重視される労働組合でもこの点が重視されたのです。
 一体性確保のための統制権として、プロセスに対してあまり配慮しない決定を労働組合が行う事例をときどき見かけますが、労働組合もこのようなプロセスへの配慮が重要となってきていると言えるでしょう。

2.実務上のポイント
 本事案では、会社とYの間にユニオン・ショップ協定があることから、除名処分されたXは、会社からも解雇されました。後に会社がこの解雇を撤回したため、XのYに対する請求は、Yの除名処分に関する問題に議論が絞られることになりました。
 しかし本判決の中で、裁判所は、会社の解雇は解雇権の濫用に該当し、無効であると明言しています。Xが他の組合を結成したり、他の組合に加入したりすることを阻害し、労働者の権利を侵害するからです。
 Yは会社との関係が良好で、会社もYの決定を受けて特にその内容を検証せずにXを解雇したのかもしれません(だからこそ、後で事情を知り、解雇を撤回したのではないでしょうか)。
 現在、会社の第2人事部とも評価されるような組合が存在する会社も多くありますが、組合内部の問題であり、組合の統制権に関わる問題であるからといって、組合の決定について何らチェックせずにそのまま受け入れていると、本事案のように組合内部のトラブルに会社も巻き込まれてしまう(本事案では、巻き込まれる前に解雇撤回によって回避できましたが)危険があることを、本判決は示しているのかもしれません。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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