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経営組織論と『経営の技法』#320

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ④変革その2 ミドルによる変革
 そのため、2つ目に変革の主体をミドルに置くことも考えられます。つまり、実行レベルで変革を起こすのです。これを戦略的突出と呼びます。戦略的突出を生むためには変革型のミドルマネジャーが存在することが必要ですし、そのミドルレベルでの変革をサポートすることが必要になります。
 具体的には、新しい試みを支援する資源の提供や変革への抵抗から守ることが挙げられます。たとえば、新しい試みを推進するチームを新しく作り、有望な人材をチームに集めて新しい試みを起こさせることもトップによるミドルからの変革といえます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』277~278頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理の観点から組織を見た場合、この「戦略的突出」をリスク対応のプロセスと見ることができます。すなわち、前回紹介した「衆議独裁」で見た場合の「衆議」に該当するものであって、社内の関係する部署や担当者たちを率いるミドルたちが、変革プランの検討に取り組むわけですから、そこではリスク対応が行われている(すなわち、十分な情報で十分な検討が行われている)と見ることができるのです。
 このように見ると、「戦略的突出」はリスク対応すべき会社組織側と経営判断すべき経営側が、会社の変革につながる重大なプランについて当初から連携を密にして、その意思決定についてより十分な検討を行ってリスク対応の制度を高めることにより経営判断の安全性を高めつつ、同時に意思決定の速度を高めるためのプロセスである、という評価ができるでしょう。
 なぜなら、会社の意思決定やその実行に関わる重要なメンバーを最初から巻き込むことになり、後から「聞いてないよ」という理由で実行を阻害されることが回避できるからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、前回見たような無理をしたトップダウンをして十分なリスク対応をせず、意思決定のためにかえって無駄な手間や時間をかけるのではなく、「戦略的突出」のようにリスク対応に十分配慮しつつ意思決定のスピードも上げられるようなリーダーシップを取れることは、経営者に期待する重要なポイントとなります。
 経営者に求められる資質として、ここぞというときに「戦略的突出」を活用して「衆議独裁」の実効性とスピードを高めるような強いリーダーシップこそが、変革のために必要なのです。

3.おわりに
 変革に関する「戦略的突出」は、変革の際の特徴的な問題を浮き彫りにします。他方、リスク対応の視点は、通常の会社意思決定やその実行に関する問題との共通点を強調します。このいずれが正しい、という関係ではなく、この両者をツールとして使いこなし、変革の際の会社組織の動きを立体的に分析しましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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